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二人は神の力を 無色の緋  作者: 夕雲 橙
本文~現代
24/28

二十二 屋上

 屋上で壁に二人並んでもたれて座り、御裏はパンとパックのコーヒーを、空色は弁当を食べていた。

 御裏が物欲しげに見るので、空色は散々苛めてからおかずを分け与える。

「ほらお手は? 私の前では、無理しないで耳を垂らして尻尾振ってもいいよ?」

「まだ動物ネタ続いていたのかよ、耳を出せるけどするかよ」

「出せるんだ……はいあーんして」

 赤い小さな箸で唐揚げを摘み上げ、落ちないように片手を添えた空色が、ごくごくさりげなく御裏の口元に箸を寄せた。

 こちらも自然に口を開きかけた御裏が、笑顔で口を開いたまま後ろに下がる。


「あー……この流れが怖いから自分で取って食うって、口開いたらその箸で刺されそうだ」

「外れ、刺さないよ失礼だな。今の私は屋上でお弁当食べるの初めてだから気分がいいだけだよ。そうだ、欲しいならご飯もあの力で造れないの?」

「無理だって、味まで保障できない」

 空色のから揚げを上手そうに食べながら、御裏は試しにから揚げを造ってみせた。

 御裏が指で空中を摘む動作をすると、指先にほくほくと湯気の上がるから揚げが出現した。

 キツネ色に揚がった、いかにも美味しそうなから揚げを一口頬張った空色が、齧りかけの唐揚げをじっと見つめ判定を下す。

「これ何の味、意味不明な味だけど。分かった、食べた事ないけどUMA(未確認生物)の味だわ」

 食べた事ないを、ことさら強調して空色は未確認生物だと断定した。

「ウーマ、馬肉っぽいのか? な、だから味は保障しないって言っただろ。ほんと、俺の力って便利なようで不便だよな」

「でも食べられる、せっかくだからご馳走さま」

 普通にから揚げを飲み込んだ空色に、御裏が驚き目を丸くして自分の飲み物を差し出す。


「食った! 具合悪くならないか、いいから早く俺のコーヒー飲め!」


 本当に体調が悪くも、気分も問題無い空色は、どうしてわざわざ御裏が口を付けたコーヒーを飲まなければならないのか怪訝に思った。

「いらない、あ……なるほどね……今頃お腹が痛い、痛いから何か一発芸しなさいよ」

「あーわざとらしい。何ともなかったくせに」


 それはさておき、涼しい顔で空色は話を変える。

「そういえば夜叉がね、昔昔だけど命と同じような力を持つ人間に会って、戦ったんだって。でも見逃してあげたら、その人は後に歴史的な偉大なる指導者になったそうだよ」

「へぇー、夜叉ってやっぱり昔悪かったの? あ、話の趣旨が違うのか悪い。やっぱり力の使いようなのか、偉くなる人はどこが違うのかな」

「他人の為に力を使ったから、夜叉は手を出さなかったんだって。夜叉からすれば只でさえ少ない寿命の人間、自己の利益を度外視した、いい人だから情けをかけたみたい。夜叉とお話したけど、価値観は人と違うみたいだけど、とっても優しい人だったよ……私のだからね!」

 自分の両肩を抱き、本気で御裏に夜叉を渡さないと空色は視線で威嚇する。

 御裏が感心しながら話に聞き入っていたのを勘違いしたようだった。

「はいはいって、俺は夜叉に興味ないから安心しな。あのセンスは好きだけどな……あ、これ見てくれ」

 御裏はどこからか取り出した携帯の待ち受け画面を見せる。

 天使の御裏が斜め下からウインクし、その隣にはややピントのぼやけた夜叉が、真面目な表情で目を瞑って写っていた。


「なにこれ……いつの間に撮ったの、ありえない、夜叉様とツーショットなんて、合成でしょ」

 御裏の携帯を取り上げた空色が、目を丸くして写真をしげしげと眺める。

「ううん、お前を助ける時にさ、夜叉と一緒に世界樹の近くまで来た。その時に、一緒に記念写真撮らせてって聞いたら、あっさり撮らせてくれたぜ」

 空色の目つきが鋭くなり、武道の達人のような迫真の気合が篭った、深い深呼吸を繰り返す。


「フョォォォォ……」


 呼吸に合わせて空色の長い黒髪が揺れる。

 只ならぬ気配に、御裏は何だか良く分からない奥義によって携帯が破壊される危機を感じ取り、慌てて空色の手から携帯を取り上げようとした。

 いざとなれば力を使ってやむなし、そこまで思わせる雰囲気があった。

「落ち着け、それ俺のだぞ、とにかく返せ」

 空色は鼻から抜けるような声で、珍しく御裏にお願いした。

「命、お願ーい。この携帯頂戴。今度お弁当のおかず多めに入れてくる、分けてあげるからね。いっそお弁当もう一つ持って来てあげる」

「気味悪い声出すな。やるかよ、おかずや弁当で会話もメールもできないだろうが、携帯返しやがれ。しっかり抱きしめるな、人質ならぬ物質のつもりか!」

「ひとじちなら、ぬぶっしつ?」

「ものじち! ややこしい、誰もそう言ってない!」

「分かってるわよ。しかたない、命は情け無い。じゃあ私の携帯に画像送ってよ」

「驚かすな、さりげなく嫌味も言うな。その写真が欲しかっただけかよ」

「うん、変なのが写ってるけど、そこはカットして私の画像を入れるの」

「まあ、何を消すか聞かずとも分かるけど。それくらいなら好きにすれば」

 御裏は空色の携帯に画像を送信した。


 空色は受け取った画像を、目を輝かせて見ていた。

 綺麗な瞳を見て、決して純真な乙女だと思ってはいけないと御裏は自分に言い聞かせる。

「ありがとう、これ、大事にするね」

 空色は携帯の画面を閉じると、本当に嬉しそうな声でお礼を言った。

「お、おぅ、大事にしろよ……ちょっと熱でもあるのか」

 あまりにも素直な空色の反応に、裏があるのか病気ではないかと勘ぐった御裏が、空色のおでこを手で押さえる。

「熱は無いようだ、だとすると素で言ったのか。髪型が違うからか? いけね、色々考えたら俺の背筋が寒くなってきた。ねえねえ、俺が熱出てない?」

「私って本気で信用ないのね、それ以上言うと訴えるわよ。でも命は私に考えなしに携帯の画像を送った、それでいいのよ。その素直さと単純さを私がフォローするのが今後の課題だから、いつも疑って掛かるよう心がけてね」

「お前さ、俺を闇の仕事人にでも育て上げるつもりか。嫌だよそんなギスギスした友達関係」

「ネジが抜けたように単純だから命は、私の傍に居られるのよ。ほら、力を持った昔の人の話の途中だったよ、どうして夜叉が見過ごしたのか考えて」


 自分の手をじっと眺め、ついでに細かい花柄の網タイツをはいた丸い太腿を見て、御裏は力の有効な使い方を考える。

 全く関係無く、空色は斜め横から見ると、さらに丸くて大きな御裏の胸には何が詰まっているのか空想していた。


 御裏は考えた、人生で何回発揮できるか分からない集中力を発揮して思考する。

 だが、悲しくも小銭を造って自動販売機のジュースが只で買えるくらいしか思いつかなかった。

 戦いでは多種多様な武器を創造できても、基本的に善人で小悪党なのだ。

 しかも、それは自動販売機を管理する人が困りそうだから考えたのみで反省して封印した。

 但し、例外も考える。緊急時ならいいだろう、そう、どうしても暑くて喉が渇いて倒れそうになり、財布には金が無い。これならしかたないが、普段は真面目にきちんと買おうと決心した。

 何よりも後ろめたい行動が発覚し、ヒリンと夜叉という組み合わせに怒られるのが嫌だった。

「なあ、ヒリンが何でも造れるとしたら。あ、造れるのは自分で可能だって思える範囲だぜ。何を造ろうと思う?」

 空色は目を閉じて手で胸を押さえ、真摯に答えた。

「すごくいい丸」

「丸? ボールか地球儀でも造るのか?」

「う、羨ましいという感情なんか少しも思ってないし! 私の意見を聞きたいの、それはとても有意義な発案だわ、命が自分で考えたとは信じられない奇跡よ。まずは手慣らしに、使えるし売れそうな貴金属でも造るかな、それに資産として家ね。あとは理想の男を数人作って貢がせるわ。宝くじや賭け事も試してみたいかな。今とっさに考えたから、平凡な案しか出ないね。そもそも、訓練すれば服も食料も出し放題みたいだから、慣れたら生きていくのにお金が必要なくなりそうな能力よね」

「偉そうに……だが俺としてはとても参考になった。もっと案があれば聞かせてくれよ」

「最終的には一生寝て暮らせるけど……命らしさが消えそうだから、もう言わない」


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