十九 鬼畜
夜叉の力で復活を遂げた空色は、泣きじゃくり抱きつく御裏の頭を押し返しながら、人差し指と中指を立てた。
御裏に対してとは打って変わった優しい言い方で夜叉に話しかける。
「待って。その声は変な世界で見てもやっぱりとても素敵な夜叉様! 教えて、私は確か体がバラバラになった、そして死に掛けた。川の向こうにお花畑を見たの……あれは多分三途の川かしら。綺麗な蝶を捕まえて、離しなさいと言う口煩いお婆さんと険悪な雰囲気だったの」
わざと目を潤ませ、演技がかった弱々しい素振りで甘える。
空色がこの手で男をだませる勝率は、幼稚園の頃から通算で90%を越える。
「私とってもとっても怖かったー。救って頂いた、運命のようなこのお礼をしたいの、むしろお返しさせて下さい」
三途の川うんぬんを無視し、甘える態度は100%スルーして夜叉は答える。
「我もメイカーも、そなたは救えぬ。クウの力は全てを無に帰す。死して力を失っていたからこそ、我の力が届いた。感謝には及ばぬ、我も無力なり」
空色の声のトーンが元に戻る。脈無しと判断し、普通に話すモードに切り替えた。
「あ、真面目な答えありがとう、でも残念――いえいえ、こちらの都合です。つまり私の力って、命とか夜叉とか、あの世界樹とかの力までもを無効化するのよね。命の何でも造れる力をもってしても、使う相手が消しちゃうから、助けようにも助けられなかったって事?」
「ご名答。メイカーとて、全ての森羅万象を操れるまで万能にあらず」
「そうなのね。命の防御壁が壊れたのは、私の力の影響もあったのかな。ねえ命、私が我慢している間にさっさと離れてよ」
とりあえず離れたい空色が、御裏の目を構えていた指で遠慮なく指で突いた。
「ぐわっ!」
弾けるように頭を後ろに逸らした御裏が、裏返った声で悲鳴を上げた。
「な、なにしやがる! よりによって、この戦いで俺に初めて大ダメージ与えやがったのがお前かよ……とにかく行動が恐ろしいぞ」
涙を流してのたうち廻る御裏に、空色は笑いながら答えた。
「うふっ、涙を流してのたうちまわってかーわいい……その声は変質者でSでがさつで、無駄に色気のある体をした単純バカの命さんかしら」
「ああそうだよ! 助けてやったお礼がこれかよ、少しは優しくしろ」
「あらやだ、遠慮したのに。命じゃなかったら、迷わずマジックで的を描いてシャーペンを刺していたけど。ダーツみたいに投げて刺して、中でわざと芯を折ったりしてね。刺すのはボールペンやピンもいいかな」
充血した目の御裏が、首を傾けて「優しいでしょ」と微笑む空色を怪訝な表情で睨む。
「ひでえ、鬼だ。ここに鬼畜を超えた鬼が居る。こんな仕打ちばかりすると、いつか我慢できなくなった俺が、お前に何するか分からないぜ」
「それって恩着せがましいよ。二度も殺しておいて、それで許してあげた私は寛大だわ。命は私に一生感謝してね」
「く、くうぅーーーそうだけど、もう、いじめっ子だー!」
痛みだけでなく精神的なショックで泣いている御裏の頭をよしよしと撫でながら、空色は夜叉に幾つかの質問をした。
この戦いで空色が知りたかったことを幾つか教えてもらえた。
夜叉は世界樹の支配から逃れる為に、打ち消す力を持つ空色を守る必要があるらしい。
世界樹は世界そのもの、そう簡単に消滅しない。復活すれば再び空色を狙うだろう。
戦いに巻き込まれた空色を死なせてしまいかけた。
対応策として、死んだ空色の肉体を、夜叉は自分の体を使い代替していた。
一通り会話を済ませた空色が、御裏にとんでもない提案をしかけた。
「本当に私、死んじゃったのか、全然実感がないのよね。命、聞いたでしょう。そういう事だから、私達で世界征服しちゃおうか」
何となく元気に返事をしかけた御裏が、笑顔で固まる。
「そうそう……違うだろ、何言ってんのお前。どこからどこまでが、そういう事って話だよ。買い物行くみたいに、ちょっとそこまでみたいな感じで言うなよ」
「命の力を、私が上手く使えるように使役……いえ、アドバイスすれば、一年もあればこの世界は崩……支配できるわよ」
「お前、今違うこと言いかけたな」
「何を仰るの。私は世界平和と愛が必要だと考え、より良い世の中には、人の思いやりや助け合いも重要だと思うわ。より良く生きろ、建設的な人生よあれ。愛は地球を救う、汝の隣人を愛せよ。全てとても大切だわ――それよりも、ほんの少しだけ自分の利益が大事なの」
「清清しく言い切ったな。俺は悪の誘惑に身を任せないぜ、今から最終決戦が始まるんじゃねえか。やばい、ヒリンが相手だと思うと危なっかしくて本気で保健に入ってセーブデータを保存したい」
悪の女ボス呼ばわりされた空色は頬を膨らませ、ふくれっ面をすると見せかけたが、笑いながら唇を尖らせた。
「ブッブー、残念でした」
「いやいた、今回は合ってる。多数決でも専門家の意見を聞いても、その辺の一般市民に尋ねても、きっと俺の意見が正しい」
御裏に向かい、空色はまるで昔の人間国宝が描いた美人画のように華麗に微笑んだ。
こいつ、絵になる雰囲気出しやがって。
胸の奥で何を企んでいるのか、考えが読めずに怖くなった御裏は思わず引いた。
引きながら自然と戦闘態勢に切り替え、いつでも武器を出せる精神状態に変化していた。
とても落ち着いた、言い聞かせるような口ぶりで空色が尋ねた。
「だったら?」
質問で返され、空色が本気で何を考えているか理解できないと思った御裏が、勇気を振り絞った。
「俺の生き方を貫く、やる時はやる! かつての仲間だろうが、オレのポリシーが許さない……って、とりあえずごめんっ!」
威勢良く正義の味方のような台詞を吐き、だけどどうにも怖くて、すかさず謝った御裏が困ったような顔の空色の反応に首を傾げる。
「ん? どした?」
「今の反応は嫌われているみたいで、こっちがさりげなく落ち込んだわ。やるわね、戦わずに先制攻撃でダメージを与えるなんて。私ね、悪玉の女リーダーって密かに憧れていたのよ。夢が適いそう……幸せってこれかな?」
ぽっと頬を染めて、空色が恥らうような仕草をした。
戦わずに済みそうでほっとした御裏が、肩の力を抜いて癖っ毛を手櫛で撫でる。
「人の幸せって人それぞれだから、俺はどうのこうの言わないけど、お前のどこかが歪んでいそうなのは確かだな」
「あのね、命をスカウトしているんだよ、私は命と敵対したくないから。最終的には、返事によるけどね」
床に胡坐で座り腕を組んだ御裏が、目を閉じて考え込む。
「丁度いいや……俺には目標があるから、そいつも果たさないといけない。俺達の力にも関係がある、夜叉も聞いてくれ」
御裏は今まで誰にも話さなかった、自分の力の所以と目的と夢を語り出した。
それこそ熱く語った。
空色はベッドの上で目を閉じて聞き、時折思い出したように深く相槌を打つ。聴いているようだが、実は御裏の演説が始まってから三十秒で眠りに落ちていた。
戦闘の疲れからか、熱弁を振るっていた御裏も、いつしか床の上に横になり寝息を立てていた――
会話のつなぎと説明が下手でした。
自分でも分かるくらいテンポと内容が、ちょっとよろしくなくてです。
比喩も上手くない、展開は強引……それでも、この章はかなり書き直しました^^;
以前の作品を改めて掲載すると、自分の弱点と伸びた点が何となく分かりました。




