十五 暴走
お待たせしました、久々の更新です。
舞台――世界樹の世界
登場人物――御裏、夜叉
行方不明――空色
敵――世界樹、その他大勢
暴走した御裏は、破壊の化身と化して止まる気配もなく荒れ狂う。
右腕を振れば空が割れ、左腕を払えば地が裂け、足は世界の境界線を踏み潰す。
違う世界へと流れるように移動する御裏、その流れに横から干渉し、自らの世界へと導く力が存在した。
物質の存在が失せて空白の地『 』にて落下する巨人の姿をした御裏に、巨大な樹の根が生えて伸び寄る。
力の名は『世界樹』ある世界の根源にして創造主であり、夜叉を創り出したもの。
―――そして、御裏は世界樹の世界に出現した。
巨大な樹の根と幹が生い茂るのみ、他には何も無い世界。
無意識のままで世界を崩壊に導く攻撃を続ける。
御裏を抑えようと、木々の間や上からも下からも、名前を持たない無数の敵が現れた。
敵を現れは倒し、攻撃を受け反撃し、尽きることのない敵の数だけ延々と戦いを繰り返す。
徐々に強力になってゆく敵達、しかし、誰も勝てなかった。
暴走する破壊の余波は世界を構成する木々を破壊し、再生する木々をまた破壊する。世界を幾度壊しても足りない力で暴れ続けていた。
「ウガアッ!」
御裏が吠える、咆哮が響き渡る範囲の敵も木々も、世界の風景もが粉々に破壊され、形を留めない微粒子となって吹き飛ばされる。
世界樹は待っていた、人である御裏の力がいつしか尽きるのを。自らの世界に引き込み、多大な損害を被りながらも、御裏の力「メイカー」と空色の力を手に入れようとしていた―――
その世界に木々を編んだ円形の枠が浮かび上がる。枠の中には静かな湖面のような闇が張られ、水面から浮かび上がるように夜叉が姿を現す。
地平線の堺までも破壊する、荒れ狂う巨人と化した御裏の存在を確認し、天に向かい重い口調で呟いた。
「我は約束を果たしに戻った」
姿を消した夜叉が、御裏の遥か上空に現れる。
「共に空の力を助けようぞ、メイカー殿」
言葉を発した瞬間、夜叉にも破壊の衝撃が襲い掛かる。周囲の空間が壊される攻撃に対し、夜叉は一瞬だけ存在を薄れさせるが、瞬きする間に復活した。
夜叉は一気に高度を落とし、巨大な岩のような御裏の頭部の横に浮かび声で意思を伝えようとした。
「我はかつて、人ならざる者を狩っていた。世界樹によって力を持つ人を借り、この世界を守護する守人として創られた」
夜叉は暴走した御裏に防御も攻撃のそぶりも見せず、穏やかにゆっくりと語る。
「世界樹とは何か、この世界を創りし存在。世界を覆う樹にして、知性にして、創造の力だ。我は、世界樹を守護するため、遥か昔に樹から生まれた」
夜叉の問いかけに反応を示さない御裏が不意に突進し、世界の裏側まで一瞬にして破壊の道を切り開く。
弾かれた夜叉が木の環に隠れ、再び御裏の傍に現れた。
「だが我は進化する能力を得、すでに世界樹の守りから外れ、独立した存在なり。そちと同じだ、世界樹の管理する摂理から外れた者となりし。そして、ある人を守りたい」
御裏の体に茶色と緑の物体が急に苔むしたように生えた。巨体に対して小さな、夜叉の背後から生えた森が御裏の体を覆い尽くすように生い茂る。
夜叉は御裏に言葉を伝える為のアンテナとして、自らの世界を発生させた。
「我々とは何か、形を持たず全てを形成し、他の知能によって補われる存在。人とは共存共生、表裏一体の関係なれど、時にその道から外れるものあり。外れし者は神のごとく別の世界の法則を操り、世界の均衡を破壊する。永遠の影響力を保持するべく、我も世界樹も戦っていた……しかし」
御裏が攻撃を止めた。
いつしか、周囲には世界樹から発生した兵士達が押し寄せる荒波のように集まり、見える範囲を覆い尽くした兵士達が一斉に攻撃を仕掛けてきた。
砂糖に群がる蟻の群れのような兵士達の攻撃に、御裏の体が端から削られた。だが、削られた端から血のような破壊の炎を吹き上げて再生を繰り返す。
自らも腕を六本生やして全方位から襲い掛かる兵士に対応しながら、さらに夜叉は語りかける。
「永遠が正解だと我には思えぬ。人の世界が世界樹や神々から離れる時は、そこまで近づいているのかもしれぬ。我が自意識を持ち、空の人、緋環が産まれたのがその証ではあろうか」
ヒリン。
その単語を聞いた御裏が、何かを思い出し動きを止めた。
「空は無だ。創造と対なる力にして、始まり全てを打ち消す、無の流れに帰す力。人が手に入れれば、世界樹の影響から逃れる盾となる。世界樹が手に入れれば、他の力を打ち消す最強の矛になろう。故に我は守ろうとし、狙われていた」
「ヒ、リ、ン」
御裏が恐ろしい咆哮で名前を呼ぶ。
語りかけていた夜叉は至近距離で咆哮による攻撃を受け、夜叉の姿がノイズのようにざらつき、薄れた体を構成する組成式が肌の下から浮かび上がる。
人が扱わない数字、数十億桁の進数で構成された文字列が流れ、互いが互いを補完し、存在を失いかけた夜叉の体を再生する。
夜叉は体が破壊されかけたにも関わらず、無表情で淡々と語る。
「世界樹は空を取り込み、我もそちの攻撃も効かぬであろう、いずれ我らの力も無効化される。世界樹の勝利、再び我も人もたった一つの存在により存在価値を固定されよう。人の世は、世界樹が力を得、究極なる生命を創造するための材料の一つとなる」
怪物と化した御裏が自らの頭部を殴り、破片を飛び散らせた。
「空……色」
「空色は他に染まらず、全てを消す色にて異能異界の力を打ち消す。それを相殺、切り離すことができるのは人なり。この場に存在する人は、そなたのみ」
「空色……緋」
「空色緋環、クウの名前。クウを呼び戻す術はある。我らが人間の現世を訪れると世界に歪みが生じる、逆もまたしかり。この世界に人が訪れれば世界は歪む、神の力とは歪みを引き出し、操作する術」
「空色緋……ヒリン」
「答えはそちが神として、人として世界樹と相対するのだ。人として、人ならざる力は使ってはならない。されど――」
御裏の声から発する攻撃の余波で、体の三分の二を失った夜叉が一瞬だけ言葉を躊躇う。
「――されそ、クウを救わなくても世界は、今までと大差無く回る。そちの意思と命だ、選択肢はそちにあり。元より、他の命に対し、我に決定権は無し」
「ヒリン……命……」
世界を支える山のような姿の御裏の目から、破滅を呼ぶ炎が消えた。
夜叉は御裏の攻撃が収まったのを見届けると、結界となる森を生成し御裏と自分を囲む。
森は世界樹から産まれた夜叉の一部、自らの力が支配する小世界。
結界内ではあらゆる事象が夜叉に有利に働く。世界樹の支配にある世界内で、御裏が正気に戻るまで自らの再生を後手にしてまで、守る為に強力な防護を施した。
「人となり空の人を救うのであれば、微力ではあるが、可能な限り我は援護する。我も世界樹の一部に戻りたくはなし」
「お、俺は……命……そして……ヒリン」
破壊神と化した御裏が膝を突いた。
暴走が穏やかになり、全身から発する荒ぶる気配が収まる。意思を取り戻すに連れて岩のような外殻が剥がれ落ち、巨人の体から土石流のような岩と砂が流れ、飲み込まれた兵士達が逃げ惑う。足元では天変地異のような騒ぎが起こっていた。
外殻が全て剥がれ落ち、積み上がり、無数の無骨な岩山を作り上げる。
一段と高い岩山の頂上に、人の形に近づいた御裏が空を見上げて佇んでいた。
燃える砂で覆われた腕を掲げ、深いため息を一つ吐く。
「あー……俺ぶっ飛んでたみたい、やっちゃた。迷惑かけたな夜叉、お前あんなに強かったのにボロボロじゃん、お前実は俺たちの味方か?」
「うむ」
「何で俺に攻撃してきたの?」
「そちの力を試した、済まぬ」
腕の砂を振り払った御裏が、髪の毛に混ざった砂埃を払い落しながら尋ねる。
「まあ、俺も散々やっちゃったし済んだことだから謝らなくていいって。つまりだ、お前の言葉を信じるとこうだな……お前は世界樹との因縁を切りたくて、人の世界の味方で、俺たちに協力する。ヒリンを手に入れた世界樹にも、人間なら勝てるんだな」
御裏が人としての心と意識を取り戻し、普段の口調で夜叉に尋ねる。御裏の大きさに合わせ夜叉は空から降下して横に並ぶ。
「話を煎じればそうだ、さらに説明が必要か」
いつしか人の大きさまで縮み、羽の生えた天使の姿をした御裏が答えた。
「その説明は面倒だからもういい、あとは世界樹を倒すんだな」
「そうだ、説明して知っての通り――」
「説明したっけ、俺知らないけど」
「――世界樹とは、この世界を造り、世界を丸ごと納めた生命だ。この世界を覆う木々、その全てが世界樹の肉体。肉体の全てに知能と記憶が可能、高度な情報処理能力を持つ。そして主と同じ『創造』の力を使う。力と知識により、我のような存在まで創造可能だ……説明はしたが、知らないとはいかに」
羽を下ろした御裏が、銀色の髪を手で梳かしながら苦笑した。
「ごめん、俺そんなに頭良くないから」
「力を扱えるお主が、能力に不足があるとは想定できぬが」
「そういえばヒリンの力って空だよな、何だっけ?」
「そうだ、既に知っての通り、全てを打ち消す力で……この説明は人の時間で十分四十五秒前にしたが」
「細かっ! タイマーでもついてんの夜叉」
「ついてはいないが、時間の計測など誰にでも可能であろう。人であるからには感覚が違うのであろうな」
「いや、どうでもいいけど、突っ込んでみただけ」
「…………主は変わっておるな、会話が難しい」
「夜叉も変、美形だけど途中から説明が理解できなかったけどさ、世界樹って凄い奴だな。そいつがヒリンの力と人間界を狙う悪の大王だな……うん、もういい。どっちにしてもやるしかない」
長い足を振るようにして立ち上がった御裏が、腰に手を当てて世界を見回す。
「じゃ、俺と夜叉でパーティ組んで行こうか」
腰の砂を払い落し、御裏が楽しそうにニッと歯を見せて笑う。
「俺、前に出て戦うから勇者役ね。そんで夜叉は、魔法使いと賢者どっちがいい? いや、ダークヒーローもありだな」
「む? ん! なに?」
「さっさとヒリン助けに行こうよ、行きながら相談しようぜ、。わぉ、異界だよ異界、敵の本拠地だぜ」
御裏が岩山を滑り降りる、その後ろを腕を組み身体を再生させながら悩んだ様子の夜叉が続く。
まるで都会に林立する高層建築のような大樹が生い茂り、空も台地もべったりと一色で塗りつぶされた、作られた世界を二人が進む。
堅苦しい感じになってしまった気がします。
自分の文章はラノベより文学向きだというご意見もあったのですが、どうでしょうか?(そんなに達筆でもないのですが)
ご意見、ご感想があると自分も登場人物も嬉しいです。
次回をお楽しみに^^