九 疑問
空色さん宅におじゃまです。
ここまで読んでいただきありがとうございます(本当に感謝です)
相変わらずのペースで話が続きます、やれやれですよ。
本題にいつ入るのか、それが問題だ。
空色の部屋に投げ入れられた御裏は、床の上にうつぶせに倒れた。
「うわぉ。乱暴な奴だな、おまけにこんな物まで」
いつの間にか両手に手錠を造り出した御裏が、やれやれと首を振る。
「どんな趣味だよ全くもう」
「……首絞めるわよ、それとも殺されたい」
手錠を無表情に眺め、空色は冷たく卑下するように言い放つ。
「どっちも死ぬじゃねえかよ。ちぇ、のり悪い奴」
手首の手錠を消した御裏が胡坐で座りなおした。
制服の上着を脱いでハンガーにかけ、空色が眉間を押さえる。
「さらに見せたくないものまで見せないで、目が潰れるわ」
「親の前と全然違うぜ、反応が。それに難儀なこった、視力が良いのに可愛そうだな」
空色の言葉を全く気にせず、御裏が膝を立てて床の上でくつろぐ。空色はハンガーの針金が飛び出した箇所を指先で玩びながら、薄ら笑いを浮かべる。
「あなたの目を潰すのよ。その力強く、澄んだ、いやらしさとカオスに満ちた瞳を」
「ん? 今のどういう例えだ。褒めたのか、貶したのか、ただ単にお前が痛い目に遭えって言いたいのか」
「まったく間が悪いわね。さっと反応しようよ、命のような打っても響かない奴と仲良くなる奴がいるのかな」
「ヒリンって女がいる、お前だろ」
「そうだよ、自分で言って世界一残念だよ」
「じゃあ飲み物出せ、喉渇いた」
「だから、反応が鈍いなりに言葉のキャッチボールしなさいよ。投げて取れなくても必死に追いかければ、それなりに可愛げがあるの。ただ突っ立てるだけじゃ、会話にならないでしょ」
「うっさい、黙るぞ」
「あら、一方的に私の攻撃を受け止める覚悟を決めたの。でくの坊と呼ぶわよ」
シンプルな白いシャツとジーンズ姿に着替えた空色が、部屋を出てすぐに冷たいお茶を注いだコップを二つ持ってきた。
「どうぞ、まず第一問。毒は、入っているかもしれないわよ」
「ん、それはそれは旨そうだ」
一瞬たりとも警戒せず素直にお茶を飲んだ御裏が、部屋の中をきょろきょろと見渡す。
空色の顔が青ざめ、両手が口元を隠し、震える声で呟いた。
「の、飲んだ……私はちゃんと言った、悪くない」
お茶を飲み干した御裏が一瞬だけ息を止める、そして笑いを浮かべてコップを置いた。
「恐ろしく演技派だなヒリンは、だがまだまだ甘いな、お前なら自分の家で犯人が誰だか簡単に分かる殺し方なんかしないぜ。今回は俺の推理が勝ったな、当然だけど毒は入ってない。ふーん、割と普通の部屋……」
「そう、苦しく無いの?」
「それもう終わりだって、しつこいぞ。ベッドの下にエロ本無いし」
「さっきから探していたのはそれ。どうして女子高生の部屋でそれを探す、あんたエロすぎ」
エロ本の替わりに女性コミックを見つけた御裏が、何の気無しにページを捲る。
「こんなの読むんだ、線が細かくて綺麗な絵だなー。女の子って感じだな。俺は戦ったりするのが好きだから少年誌系しか読んだ事ないけど」
「そこは個人の趣味の範囲じゃないかしら、面白い話もあるし、私もたまにはそっち系も読むわよ」
「結構シリアスな内容だなこれ。それより聞きたい事があるんだけど、結構突っ込んだ話するぞ」
「どうぞ、変な質問はなしよ」
あるページで動きを止めた御裏が、驚いてページを二度見する。
勉強机とセットの椅子に座った空色に、御裏は耳まで真っ赤になって目を見開いて尋ねた。
「こ、この二人授業中に校舎裏で何やってんの、こ、これ、しちゃってるよ! すげ、この女の子童顔なのに何て獰猛ぶりだ! 相手の男ハンサムだけどそれでいいのか?」
空色は思わず空のグラスを投げつける。
「あんた! 真剣な顔して聞きたい事ってそれ?」
「だってよ、花に囲まれて半裸だぜ。俺、度肝抜かれた、何だよこのセンス」
うわーと小さく呟いて、御裏がドキドキしながら震える手でページを捲り、ハッとして息を止めた。
そのページに何が書いてあるのか知っている空色が、御裏の反応を興味深く見ていた。
「……うん、そうなの……いや、まあ……そこまで……そうなるよね」
顔を赤くして御裏は本を閉じた。
珍らしいものを見るように興味深げに空色が尋ねる。
「どうしたの?」
「ううん、聞くな。ちょっと気持ちの整理が」
「この手の本って読まないの、割と普通だけど」
「い、いや……まさか本当にエロ系があるとは……しかも堂々と本棚に」
「これ女性向け恋愛話メインの本だから」
「普通に売ってるのかこれ?」
「普通に本屋で入手可能だけど」
顔を手で押さえた御裏が、世の中そんなになっていたのかと何か分からないものに後悔した。
「命ってさ、割とウブなんだね。何て言うかさ、行動は変態でエロっぽいけど、実は純情なの?」
何故か正座で座り直し顔を抑えた御裏が首を振る。
「言わない言わない、恥ずかしい」
「わわっ、命の照れる言葉初めて聞いたけど……不気味で、か、かっわいいー! でも不気味! 気持ち悪い一歩手前」
暫くの間、照れまくる御裏を空色が言葉で弄り倒していた。
最後には半泣きになりそうになった御裏が落ち着いた頃合を見計らい、空色が肝心な話を尋ねた。
「あのね、皆はどうしておかしくなって、命と私はその中で平気だったの。それに、何もない所からどうして武器や道具を出せるの。人間じゃないのと戦ったよね、あんなの初めて見た。そして壊れた道路が元通り、正直、私には何が何だかさっぱりよ」
「どっちも、俺にも正確には分かんない」
「頭が悪いから?」
「おい、普通にそれ聞くか」
御裏は空色の部屋の目覚まし時計を眺め、時計を例えに答える。
「何で時間が流れるのかなんて、誰も分かんないけど、普通に当たり前だろ。今日の出来事は、時計が壊れて、原因を起こした奴をやっつけたら直った感じかな。戦闘中の破壊は、異変が消えると何でか自然に消えるぜ」
解説を聞いた空色が指先を咥えて考え込み、空色なりの解釈を述べた。
「ゴキブリをスリッパで叩くみたいにあの男を粉砕したら、それから異変は起きてないね。つまり、古いテレビが故障して角を四十五度でぶったたけば直る、そういうイメージかな……皆がおかしくなった理由は、命でも分からないんだ。分からないだらけじゃないの……役立たずでごめんなさいは?」
「何で俺が責められるのか」
「命だから」
「……何か、普通にグサッときたんだけど」
しかたないわね、そう呟いた空色が質問を変える。
「武器は何となく出せるの? 未来から来た猫型ロボットみたいに、便利な道具も何でも出せるの?」
「そうだなー、自分がちゃんと頭の中でイメージ出来る物だったらほとんど作れる。出来るのは何でか分かんない」
空色は、どこかに秘密のポケットがあるのではないかと、じっと御裏の腹を見つめる。御裏はお腹が空いていることに気づいた。
「そういや、もう夕食の時間だよな」
御裏の言葉が聞こえなかったように、空色は昼間の礼を述べる。
「そうなの? その力のお陰で私はすごく助かったし、感謝もしているけど。命はどうして助けようと思ったの」
「そんなお礼なんていいよ、気持ちはありがとな……それでな、腹減ったって分かりやすく言い直す、くれないの? 何もなしなのか? 隠すなよ、実はあるだろ」
「あのね、私が素直にお礼を言っているのよ。命は飲むと食うしか興味ないの、行動がケダモノそのものよ」
「そこまで言われちゃしかたない、ケダモノは撤回しろ。食い物は後回しで、好意を素直に受け取ってやるよ」
少し怒り気味に頭を掻き、それから照れて顔を赤くした御裏が横を向いて答えた。
「本音を言うと……学校で会った時にな、直感的に俺と同類がいるなって、あの時思ったからだ。だったら、俺と同じように困ったり感じている筈だと思ったからな」
「私って、そんなに倒錯した軽い女に見えるのかな。命はそうかもしれないけれど、学校で感じて困ったりしないわよ、そんな勘違いされたら軽く鬱になりそう。性欲ぐらい抑えられるわ、同類にしないでよ、人間失格以前の人間未満のくせに」
「おいおい。恩人なのに、そんな風に思われた俺は、軽く雷に打たれたような衝撃を受けた」
「そう、それならいっそ……」
「感電死しろ、そう言おうとしただろ。どうだ」
「……うれしいでしょ、って言おうとしたのに。話が脱線してるよ」
「ごまかしたな」
「脱線しているのは事実だと思わない?」
「はいはい、面倒な奴だなー。そんなに聞きたいなら、俺なりに理解している範囲で説明する……」
軽いノックが聞こえ、部屋の外から空色母が、ご飯できたわよと声を掛ける。
会話の途中で口を開いたままの御裏が、目を輝かせて答えた。
「はい、すぐ行きます!」
「何であんたが先に答えるの、いつから家の家族になったの!」
「今さっきからだ。ドラマだったらヒリンが妹役で、俺が兄貴役か。黙っていれば可愛いのにな、優しくてカッコイイ兄と性格のひん曲がった見た目だけはいい妹だな。案外、性格悪い役って人気出るんだぜ、知ってた?」
「そんな設定にならないわよ。あんたは高校生で駆け落ちして、既にバツ一、普段は家に居ない問題児よ。命がもし出演したらモザイク入りまくるから、絶対に没よ」
「俺とヒリンが出たら絶対に面白いって。生意気な妹に困りながらも、心のどこかで可愛いなーと思って。最後は荒野で決闘だな……ヒューって効果音が聞こえて『強くなったなヒリン』『さすがお兄様こそ』と言って、まず回想シーンから」
「ストップ。どのみち私は出ないわよ、そんな一部のマニアに高い評価を受けるような設定。あげく付いた呼び名が世界一有名な駄作よ」
口げんかのような会話を交えつつ食事に向かう。
家に帰らず心配する空色母に、家は放任主義ですから勝手にしても大丈夫だと説明し、御裏は他人の家でしっかりとご飯を頂く。
食事を終えてテレビを見ながらくつろいでいた。母親はお酒を、御裏はお茶を片手にツマミを食べながら、あまりにも自然に過ごしていた。
実の子である空色が、自分が呼ばれた客のような気分で離れて見ていた。
「そうか、私は自分から壁を作っていたのね。割といい家庭じゃないの。こんな兄弟なら、まあ、そこそこいいかな」
見たい番組が終わり、そろそろ片付けをしようと母親ががテレビを切る。健康診断で量を制限されていると言った母親は、グラスの底に残ったお酒を最後にゆっくり呑んでいた。
立ち上がった御裏が空色の横に座り肩を叩いて言った。
「じゃあ部屋に戻ろうか」
「ぶっふっ」
空色がお茶を口から吹いた。
あーあ、きたねえ……と呟いた御裏が、お茶が飛んだ空色の服を傍にあったふきんで拭く。
「あんたいつまで居座る気……や、ちょっと、自分でこれぐらいするから」
「何言ってるんだ、友達で兄弟だろ。それに他人でも気にするな」
「するわよ」
「どうして胸を隠すかな……あっ、貧乳でもスリムとかスレンダーって言って、今はもてるらしいぜ。そういやモデルも細いだろ、あの本の子もペッタンだったし、気にするな」
「あら、命は親切に優しくアドバイスしてくれたの?」
空色の体内に黒い怒りの渦が湧き上がった。
両親の前でなければ、罵詈雑言を浴びせて精神崩壊させていた。それをやると子供の育て方を間違えたと心配を掛けるので、空色は引きつった笑いで耐える。
部屋に連れて行って、これからどう泣かせてひれ伏させるか一瞬にして三十六手を考え付く。
禁断の三十七手目まで考えていたが、それは人としてしてはいけない事なので、自分で封印した。
不自然な程の愛くるしい笑顔で立ち上がった空色が、御裏の背中を押してリビングを出ようとした。
「お母さん、おいしかったよー」
御裏がそう言って振り返ると、いつの間にかテレビが付いていた。
「ん、あれ?」
変な顔で部屋の中を二度、三度見直す御裏を置いて空色はさっさと出て行く。
何かを思い出したのか、天井を見上げて奥に消えた空色母の背中を御裏はじっと観察する。振り返った空色が御裏の腕を引っ張る。
「どうしたの、鼻が痒いような面白い変な顔して。誰も注目しないからって、いつまで突っ立ってるの止めなさい」
御裏は母親の立ち位置を確認した。後頭部を押さえ、変な顔のまま後ろ向きに出て行った。
もう、むちゃくちゃ恥ずかしいですよ……
一年前は何を考えてこの話を書いて、しかも投稿したのか。
次は戦闘シーンで、そこからポンポンと話は進みます。
昔の恥ずかしい文章がいっぱい、更新できないかもしれないです。自分は学校で感じたりしない派です。




