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魔スコット・ガーディアン  作者: 蒼埜葉琉
第一章:隣に引っ越してきたのは
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9/9

八

 次の日の朝。

 

 学校へついて早々、いづるは逃げるように使われていない教室へと駆け込んでいた。

 辺りを窺い、人がいないことを確認して大きくため息をつく。

 と――背負っていたカバンを乱雑に机の上に下ろす。

 カバンの中からがさごそと「せめぇな」とくぐもった声、そして妙なふくらみ。

 思いっきり、チャックを開けてのぞき込む。

 その中には。

 本来な教科書やら弁当が入っているはずだ。そう、入っているはず、だった。

しかし、今はそれがあるものに代わっていた。

 入っていたのはほぼ殻の弁当を抱えた、うさぎもどきである。

 教科書ないのも厳しいが、カラの弁当が一番、いづるにはつらい。

 昨日の夕飯を食べ損ねただけでなく、楽しみにしていたお昼ご飯までも、食べ損ねることになるなどとは。

(くそっ、気づけなかった!)

 昨日のことで疲れていたいづるは、ぼーっとしたままカバンを持ってきたことを深く後悔した。ちゃんと朝にもう一度、確認するべきだった。

 部屋を出る時、重さが違うと思ったのだ。

 「おまえ、ついてきてたのか」

 いづるがじろりと睨むも、そんな睨みなどものともせず、ふんっと鼻を鳴らすもふもふのうさぎ。

 いや違う、うさぎもどきがいた。

「なんだおまえ、パートナーだろうが。ついてきてやってるの、ありがたく思えよ」

「あのなあ」

 それは昨日――バイト先で紹介された相棒という名の喋る獣、ネオリアであった。

 ネオリアが弁当箱に残っていたたこさんウィンナーを手に取りながら、むぐむぐと頬張り言うものだから、いづるのこめかみには青筋が浮かぶ。

 今日一番の楽しみだったお弁当を食べられたのだ。しかもメインの一つ、たこさんウィンナー。

 何度でも言おう、食べ物の恨みは恐いのだ。

 その他のおかず、卵焼きに煮物もほぼ食べられてるのだから、いづるは心の中で血の涙を流した。

「お前、食べ物の恨みはこわいって、知ってるか?」

「ふん、食べるのが遅いお前が悪いんだ。大体、こっちは朝早くでお腹すかしてるんだぞ、しかもカミサカが朝のご飯、昨日食べ過ぎだって減らしやがって」

 ふんふんと鼻を鳴らし、ふて腐れるネオリアに半目になる。

 あれだけ食べていたのだ、ネオリアの体調を気にしてのことだろう。上坂――遥人の気遣いはしかし、無駄に終わったようである。

「お前のせいで、なずなに怪しまれたぞ、あれ」

「なんだ? 彼女か?」

「違う、変にませた獣だな」

「ふふん、ネオリア様にかかれば恋愛なんて簡単! 相手はいちころ! この愛らしさでみんな、ノックダウンだぞ! 凄いだろっ」

「はいはい」

 だんだん相手をしているのが面倒になったいづるは、どうでもいいとばかりに返事をする。

 そして。

 先程分かれた幼馴染、なずなの事を思い出す。何か言いたげな、寂しそうな顔をしていた。さすがに、態度が悪かったかもしれない。

「今度、なにかお菓子持っていくか」

「なんだ、お菓子?! 俺も食べたい!」

「お前は散々、遥人さんに食べさせてもらってるんじゃないのか」

「それとこれとは別だ!」

 食べたい食べたいと連呼するネオリアが煩く、いづるはああもう、と煩わしげに小さく声を上げた。

「わかった、わかった! ったくお前、食べることしか考えてないのか? ってか、食い意地張りすぎだろ」

「別に、腹いっぱい、食べたいだけだ」

「?」

 少しばかり、間のある回答にいづるは首を傾げる。さっきまで、さんざん騒いでいたのが嘘のよな静かな言葉だったからだ。

 が、そう思ったのは数秒だった。

「だから、寄こせ!」

「ぶれないな、お前。はー、買わなきゃ煩そうだな。わかった、わかった」

「よしっ、その言葉忘れんなよっ」

 上機嫌に、カバンからひょこりと身を乗り出し、二つに分かれた尻尾をぶんぶか振る姿は

「こうしてれば、まだあれなんだな」

「なんだ?」

「なんでもない」

 いづるがすっと目を逸らすと、特に気にすることなくネオリアは辺りをめずらしそうに見渡して、またふんふんと鼻を鳴らした。

「にしてもここ、そうか、やっぱり」

「なんだよ」

「道があるぞ、すぐ近くだ」

「はっ」

「来て正解だったな! よし、さっそくどこにあるか探すぞ、相棒! いくぞっ」

 びしっと、短い手で指し示す方は教室の入り口である。

 しかし、いづるは冷静だった。

「いや、いかないから。バイトは放課後、授業だからお前、隠れてろ」

「なんだと?! お前、契約したくせに!」

「だから、じゅぎょっ」


「そこに誰かいるんですか? もう、HRが始まりますが」


「「!!!」」


 いづるは瞬間、ネオリアをバックに押し込みチャックを閉めた。

 その同時に、がらりと教室のドアが開くのは重なった。セーフだ。

「あら、やっぱり誰かいたのね。こんなところでなにしてるのかしら? もうそろそろ、朝のHRが始まるけれど」

 入ってきたのはいづるたち、一年の学年主任である東堂冬海であった。細い黒縁フレームの眼鏡に、ボブショートの髪の女性だ。この先生は少しでもおかしいと感じたら容赦なく厳しく追及してくることで有名で、案の定、こんな空き教室にいたいづるへ訝しげな鋭い瞳が向けられた。

(あちゃー、怪しまれてるな)

「ええっと、ちょっとお腹痛くなって休んでたというか」

「なら、保健室行けばいいでしょう?」

「保健室はちょっと、苦手で」

「苦手でも、具合悪いのならいかないと」

「はは、そうですよね」

 から笑いをするいづるに、さらに東堂の瞳は細まる。

「……キミ」

「はい」

「さっき、誰かと話してなかったかしら、その、気のせいならいいのよ。誰もいないみたいだけど、誰かいるわけじゃ、ないわよね?」

「いないですけど。先生にはだれか見えるんですか?」

 いづるがそう言えば、なぜかものすごく狼狽して東堂が半歩後ずさった。

「み、みえるわけないでしょう。も、もういいです。具合悪いなら保健室で休んでなさい。ええっと、君の名前は? クラスは? そのネクタイなら一年ね」

「七組の有川ですけど」

「そう、先生には伝えとくから行きなさい」

「え」

「ほら、いくの。ああもう、行くわよ! まったく、変なこと言うんだから」

 そう言ってさっさと出て行く東堂に、いづるは暫しかたまり、目を白黒させる。

「なんだ、あれ」

「怖いの嫌いなんだろ」

 とたん、カバンからくぐもった声でネオリアが言ってくるが無視をする。

「ほら、早く来なさい!」

「あ、はい」

 ひょこりと出てったドアから顔を覗かせた東堂に、慌てて返事をして追いかける。

(まあ、ネオリア連れて授業は無理があるか)

 ありがたく、東堂の言葉に従うことにした。

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