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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

DREAM DIVE ERROR:漆黒のイカズチと血薔薇の戦姫

作者: 小沢孝二
掲載日:2026/05/13

本作をご覧いただきありがとうございます。

舞台は近未来の東京。

精神世界へダイブし、悪夢を狩る専門職「ドリームダイバー」の戦いを描くダークアクションです。

漆黒の雷を操る青年・風月と、熱き鞭を振るう少女・火楽。

二人が組織の闇に触れ、やがて世界そのものと対峙していく軌跡をお楽しみください。

 東京は、ゆっくりと腐敗していた。

 一年前、上空で爆発した隕石。そこから降り注いだ微細な粒子は、23区を灰色の檻へと変えた。粒子を吸い込んだ者は、例外なく【ナイトメア症候群】を発症する。

 眠れば最後、終わりのない悪夢に精神を削られ、ある者は衰弱死し、ある者は発狂して自ら命を絶つ。

 だが、その絶望の中で、粒子に対して「耐性」を持つ者が現れた。

 彼らは患者の額に触れることで、その精神世界へと肉体ごと侵入する能力――【ドリームダイブ】に目覚めていた。

 政府は彼らを【ドリームダイバー】と呼び、救世主として祭り上げた。だが、実態は異なる。

「……ヒーロー、か。笑わせるな」

 武見風月たけみかずきは、駅前の自動販売機で冷え切った缶コーヒーを買い、口に含んだ。

 鉄錆の混じった空気と、安っぽいカフェインの味が舌の上で不協和音を奏でる。

 他人の夢の中は、その人間の深層心理の影響下にある「異界」だ。生身のダイバーが入ったところで、悪夢の元凶たる【ナイトメア】の前では無力に等しい。

 だからこそ、この組織が作られた。

 対ナイトメア駆逐組織――【ドリームキャッチャー】。

 そして、ダイバーが夢の影響を無効化し、戦闘能力を物理的に行使するための専用強化スーツ、別名【バク】。

 ポケットの端末が、心臓を刺すような鋭い音を立てた。

 ――【至急、出動要請。第23地区、緊急搬送患者1名。ダイブ承認】――

 風月は飲みかけの缶をゴミ箱に投げ捨てた。

 乾いた音が、静まり返った街に響く。

 病院の一室は、もはや処置室というよりは拷問部屋の様相を呈していた。

 ベッドに拘束された女子高生、前橋由香里。

 彼女の喉からは、人間とは思えない獣のような咆哮が漏れ、白目を剥いた瞳からは血の混じった涙が流れている。

「脳波、第4フェーズを突破! このままでは精神崩壊ブレイン・ダウンします!」

 白衣の男たちが喚き散らす中、風月は静かに歩み寄った。

由香里の周囲には、すでに黒い霧のような粒子が物理的な質量を持って渦巻いている。

「……おい」

 風月の隣には、鮮やかな赤髪の少女、里見火楽さとみかぐらが立っていた。

「わかってるわよ。……今回の『獲物』はかなりデカそうね。由香里だっけ? この子、中から食い破られてる」

「同情か?」

「まさか。死なれたら、私の実績に傷がつくって言ってるの」

 風月は無言で由香里の額に手を置く。

 次の瞬間、世界が反転し、重力が消失した。

「『漠着ばくちゃく』――!!」

 叫びと共に、風月の全身を漆黒の外装が包み込んだ。

 鴉を彷彿とさせる、鋭利で有機的なシルエット。額の中央には、三本足の神鳥【八咫烏ヤタガラス】の紋章が青白く発光する。

 背中には一振りの日本刀。

 同時に、隣には火楽が変身した姿があった。

 鮮血色の外装。バラをモチーフにした刺々しくも美しい装甲。

 二人のダイバーは、吸い込まれるように患者の精神世界へと沈んでいく。

 そこは、終わりなき廊下だった。

 壁は人間の皮膚のような質感で、ドクドクと脈動している。天井からは、臍の緒のような鎖が幾本も垂れ下がっていた。

 ドサリ、という重苦しい音が響く。

 廊下の先。

 そこには、全裸でうずくまる由香里と、その上に覆いかぶさる「怪物」がいた。

 獣人型のナイトメア。

 父親の面影を残した巨躯だが、その顔面は硫酸を浴びたように爛れ、眼球は不自然な数だけ増殖している。

 父親から受けた凄惨な虐待、近親相姦の記憶が具現化した、醜悪な悪夢の権化だ。

「イ、イイ……コダ……ユカリ……」

 怪物の口から、汚泥のような声が漏れる。

「胸糞悪いな」

 風月――スーツに身を包んだ「バク」が、床を蹴った。

 一歩。

 ドリームダイブ特有の「体の動かしにくさ」を、スーツの動力源が強引に弾き飛ばす。

 チャキ、と小気味良い音が響き、背中の日本刀が抜かれた。

「アァ……? 邪魔……ヲ……スルナ……!」

 父親のナイトメアが、肥大化した腕を振り回す。

 風月は空中で身を捻った。スタイリッシュな機動。

 触手の隙間を縫い、最速の最短距離で怪物の懐へ潜り込む。

 ――閃光。

 一閃。怪物の腕が、肩口からボロ雑巾のように斬り飛ばされた。

 断面からは血ではなく、ドロドロとした黒い「悪意」が噴き出す。

「ギガァァァァァッ!!」

「火楽、仕掛けろ!」

「言われなくても!!」

 鮮血色の影が舞う。火楽の手に握られたブレードウィップ【血薔薇ちばら】が、超高温を帯びて咆哮した。

 シュルシュルと音を立てて伸びた鞭が、怪物の胴体を何重にも巻き付け、その肉をジリジリと焼き切っていく。

 脂の焼ける嫌な臭いが、夢の中に充満した。

 怪物が悶え苦しみ、その姿がさらに醜悪に膨れ上がる。

 由香里の記憶から引き出された「恐怖」が、ナイトメアを限界まで強化しようとしていた。

「一気に決める。……【イカズチ】」

 風月が刀を持ち替える。

 通常戦闘用の日本刀。だが、トドメを刺す瞬間、それは真の姿であるハイパーブレードへと変貌する。

 刀身に青白い【雷】の属性エネルギーが走り、大気が震えた。

「……断つ」

 雷鳴。

 風月が踏み込んだ瞬間、その姿は雷光と化した。

 怪物の眉間から股下まで、一筋の光が走り抜ける。

 一秒の沈黙。

 怪物の巨躯が、左右真っ二つに割れた。

 内臓に似た悪夢の残滓が床にぶちまけられ、それらは風に舞う灰のように消えていく。

 風月は、血のついた刀を振って納刀した。

「……任務、完了だ」

 足元で、由香里が呆然と風月を見上げている。

 その瞳に宿っているのは、感謝か。それとも、化け物を屠る異形の騎士への恐怖か。

 風月は彼女に手を差し伸べることなく、ただ背を向けた。

 夢の境界が崩れていく。

 現実という名の、さらに残酷な地獄へ戻る時間が来た。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

本作は「夢」と「現実」の境界をテーマにしたアクション小説です。

スタイリッシュな戦闘描写はもちろん、組織「ドリームキャッチャー」が隠し持つ歪な真実についても、徐々に深掘りしていく予定です。

隔日または定期的に更新していきますので、続きが気になる方はぜひチェックをお願いします!

次回、第二患者と新たなナイトメアとの激突。

ぜひ【ブックマーク】や【評価】をいただけますと、執筆の大きな励みになります!

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