表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やり直し令嬢は、断罪の舞台を「密室」に変える 〜証拠不十分で婚約破棄は成立しませんわ〜  作者: 和三盆


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/5

第2話:密室(クローズド・サークル)は誰のために

 魔法の鎖が完全に扉を封じた瞬間、夜会場の空気が変わった。

 ざわめきは消え、残ったのは息を潜めるような沈黙だけ。


「エレーナ、これは王命への反逆だぞ!」

 セドリック王子が声を荒らげる。


「いいえ、殿下。事実確認の場を設けただけですわ」

 私は扇子を閉じ、淡々と言った。

「それとも……調べられると、何かご都合の悪いことでも?」


 王子の喉が、ひくりと鳴ったのを私は見逃さない。


「まず、前提条件を整理いたしましょう」


 私は一歩前に出て、指を一本立てた。


「この会場は、今この瞬間から完全な密室。

 ・扉は内側からしか開かない

 ・窓は結界で遮断

 ・転移魔法は封印

 つまり——今から新たな犯行は不可能」


 次に二本目。


「よって、リリア様が毒に侵されたとすれば、

 それはこの密室が成立する以前に仕込まれていた、ということになります」


 貴族たちの視線が、一斉にリリアへ向いた。


「ひっ……」

 彼女は王子の腕に縋りつき、か弱く震える。


「安心なさって。私は被害者を疑う趣味はありませんの」


 そう前置きしてから、私は静かに続けた。


「ですが——被害者の“持ち物”は別ですわ」


「殿下。毒が盛られたのは、スープ……でしたわね?」


「そ、そうだ! リリアはそれを口にして倒れた!」


「いいえ」


 私は即座に否定した。


「もしスープに即効性の毒が入っていたなら、

 味覚か臭いに異変が出る。ですが、リリア様は最後まで完食なさっています」


「……!」


「さらに言えば、その毒。

 致死量に達するには摂取量が少なすぎる」


 会場がざわつく。


「つまり、毒は“料理”ではなく——」


 私は視線を下げた。


「リリア様のバッグ。そこに入っていた物品に、塗布されていた」


「バッグ……?」

 誰かが小さく呟いた。


「はい。女性が頻繁に触れる物。

 ハンカチ、香水瓶、手袋……どれも皮膚接触が前提」


 私は一つ息をつく。


「これは遅効性の経皮毒。

 倒れた“タイミング”を、あたかもスープが原因のように見せるためのトリックです」


 リリアの肩が、ぴくりと跳ねた。


「おかしいですわね」

 私は首を傾げる。

「被害者であるはずの方が、毒の種類を知っているかのような反応」


「そ、そんなこと……!」


「ご安心を。

 私はまだ、あなたを犯人だとは一言も言っていません」


 そう言って、私はゆっくりと王子を見た。


「殿下。

 リリア様のバッグに、最後に触れたのはどなた?」


「……彼女の侍女だ」


「その侍女は、第一話で申し上げた通り、

 私の部屋で毒を見つけたと“偽証”した人物」


 私は微笑んだ。


「つまり——

 毒を仕込んだ人物と、私を陥れた人物は同一」


 セドリック王子の顔色が、みるみる青ざめていく。


「ですが不思議ですわね」

「その侍女、今この密室にはいません」


 私は扇子で、空間を円くなぞった。


「逃げ場のない密室で、

 肝心の実行犯だけが不在」


 静寂。


「……これはつまり」


 私は結論を口にする。


「侍女は“実行犯”ではなく、

 ただの駒。

 真の犯人は——この場にいます」


「ば、馬鹿な……!」

 王子が叫ぶ。


「馬鹿ではありませんわ。論理です」


 私は一礼した。


「次の論点は三つ。

 ・誰が侍女に指示を出したか

 ・なぜリリア様は“被害者役”を引き受けたか

 ・そして——この断罪劇で、最も得をする人物は誰か」


 私は、はっきりと宣言した。


「殿下。

 次で、あなたのアリバイを検証いたします」


 扇子が、ぴたりと彼を指す。


「逃げ場のない密室での尋問。

 どうぞ、最後までお付き合いくださいませ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ