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第6話 ロリマンの絶傑 ハエテネーゼ


 ルナの風邪は、二日ほどで落ち着いた。

 熱も下がり、声も戻ってきた頃、

 俺は久しぶりにあの声を聞いた。

「おにーさーん!」

 壁越しじゃなく、

 玄関の外から。

 ドアを開けると、

 ランドセルを背負ったルナが立っていた。

「おかえり」

 そう言うと、

 ルナは少し驚いた顔をしてから、にこっと笑った。

「……ただいま!」

 それが、やけに胸に残った。

 夕方。

 俺は自室で洗濯物を畳んでいた。

 コンコン。

 控えめなノック。

「どうぞ」

 ドアを開けると、

 ルナがプリントを持って立っていた。

「せんせいから」

「どれどれ……」

 宿題のお知らせと、

 保護者欄。

「……ここ、

 ママに渡すやつだな」

 そう言うと、

 ルナは少しだけ口を尖らせた。

「……うん」

 それ以上は言わない。

 でも。

 その沈黙が、

 何を意味してるかは分かった。

 少しして。

 隣の部屋から、

 ルナの母親の声が聞こえた。

「今日は、少し遅くなるね」

「はーい」

 電話を切った後、

 ルナはしばらく黙っていた。

「……おにーさん」

「ん?」

「ルナね」

 言葉を探すみたいに、

 指先をもじもじさせる。

「ここにいても……

 いい?」

 その問いは、

 軽くなかった。

「……もちろん」

 即答だった。

「いていいどころか、

 来い」

 ルナの顔が、ぱっと明るくなる。

 夕飯は、

 冷凍チャーハンとスープ。

 豪華でも、特別でもない。

「おいしい!」

「それは、

 冷凍食品の力だな」

「でも、おにーさんがいる!」

 因果関係は不明。

 でも、否定もしなかった。

 食後。

 ソファに並んで座る。

 テレビはついているけど、

 誰もちゃんと見ていない。

 ルナは、

 俺の袖を軽く掴んでいる。

「なあ、ルナ」

「なーに?」

「学校、どうだった?」

「……ふつう」

 それから、小さな声で。

「でもね」

「おう」

「きょうね、

 『おかえり』って

 いわれた」

 友達に、らしい。

「そっか」

「うれしかった」

 少し間があって。

「でも」

 ルナは、俺を見る。

「ここでいう

 『ただいま』のほうが、

 すき」

 胸の奥が、静かに鳴った。

 夜。

 ルナは隣の部屋に戻る前、

 俺の前で立ち止まった。

「おにーさん」

「ん?」

「ルナね」

 一呼吸置いて。

「ここ、

 だいすき」

 それだけ言って、

 部屋に戻っていった。

 ドアが閉まる。

 俺は、しばらくその前に立っていた。

「……重いな」

 責任とか、

 覚悟とか。

 そういう言葉が浮かぶ。

 でも。

 今日一日を思い返すと、

 それ以上に、自然だった。

「ただいまって言う場所がある」

 それだけの話だ。

 ベッドに腰を下ろし、

 電気を消す。

 壁の向こうから、

 小さな物音。

 ちゃんと帰ってきてる。

 それを確認してから、

 目を閉じた。

 今日は、それで十分だった。

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