第五話 ロリマン展開
その日は、朝からおかしかった。
いつもなら、ドア越しに聞こえてくるはずの
「おにーさーん!」
が、聞こえない。
「……?」
嫌な予感がして、隣の部屋のインターホンを押した。
ピンポーン。
少し遅れて、ルナの母親が出てくる。
「すみません……
ルナ、ちょっと熱が出ちゃって」
「熱?」
「38度くらいで……
今日は学校、お休みです」
胸の奥が、きゅっと締まった。
「何か……
手伝えることありますか?」
自然に、そう聞いていた。
昼前。
俺はなぜか、
スーパーで子ども用のゼリーとスポーツドリンクを選んでいた。
「……完全に、
家族ムーブだな」
でも、変な感じはしなかった。
ルナは、布団の中で丸くなっていた。
「……おにーさん?」
「来たぞ」
声をかけると、
少しだけ安心した顔になる。
「おみず……」
「はいはい」
コップを持つ手が、少し震えた。
俺が倒れたらどうする?
そんな考えが、一瞬よぎる。
でも。
「だいじょうぶ」
自分に言い聞かせる。
夕方。
ルナは、うとうとしながら呟いた。
「……まえのせかい……
さむかった……」
「……そうか」
深くは聞かなかった。
今は、
ここにいる。
それでいい。
夜。
熱は、少し下がった。
「おにーさん」
「ん?」
「きょう、いてくれて……
ありがとう」
その一言で、
全部が報われた気がした。
「どういたしまして」
それ以上、言葉はいらなかった。
帰り際。
ルナの母親が、深く頭を下げた。
「本当に……
助かりました」
「いえ……」
その時、分かった。
俺はもう、
“ただの隣人”じゃない。
でも。
父親でも、
保護者でも、
ヒーローでもない。
ただ。
「困った時に、
そこにいる人」
それで、十分だ。
自室に戻り、
ベッドに倒れ込む。
「……平穏とは違うけど」
天井を見つめて、
小さく笑った。
「悪くないな」
隣の部屋から、
微かな寝息が聞こえる。
それを確認してから、
電気を消した。




