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第四話 お風呂あがりに鉢合わせしただけなのに、人生最大の誤解が生まれた



 その日は、雨だった。

 夕方から降り始めた雨は、夜になっても止まず、

 アパートの廊下には湿った空気が溜まっている。

「……洗濯、失敗したな」

 俺は自室で、ため息をついた。

 そんな時。

 インターホンが鳴る。

 ピンポーン。

「……はい?」

 ドアを開けると、

 そこにいたのはルナの母親だった。

「すみません……

 急で申し訳ないんですけど」

「なにかありました?」

「給湯器が……

 突然止まってしまって……」

 なるほど。

 雨。

 夜。

 お風呂トラブル。

「……よければ、

 うちでどうぞ」

「本当に、いいんですか?」

「はい。

 狭いですけど」

 完全に善意。

 下心ゼロ。

 数分後。

 ルナは、

 パジャマとタオルを抱えて、

 うちの脱衣所に立っていた。

「おにーさん、

 ここ?」

「そう。

 終わったら呼んで」

「はーい!」

 元気。

 俺は自室に戻り、

 スマホをいじって待機。

 ……待機。

 ……長い。

「……女の子って、

 そんなもんか」

 その時。

 ガチャ。

 ドアの開く音。

「……?」

 振り向いた瞬間。

「おにーさーん!」

 ルナが、

 ほかほかの湯気をまとって現れた。

 髪はタオルで包まれている。

 パジャマはきちんと着ている。

 ——完全に健全。

 だが。

「ちょ、

 ちょっと待て!!」

「どうしたの?」

「呼んでから出て!!」

 その瞬間。

 別のドアが開いた。

「……あら?」

 聞き覚えのある声。

 振り向くと、

 そこに立っていたのは——

 近所のお姉さん、ミサキさん。

 どうやら、

 廊下で雨漏りを確認していたらしい。

 目の前の光景。

 俺。

 部屋。

 お風呂あがりのルナ。

 沈黙。

「……へぇ」

 ミサキさんが、

 にこっと笑った。

「ずいぶん仲がいいんですね」

「違います!!」

 即否定。

「給湯器が壊れて、

 一時的に、

 ほんとに一時的にです!!」

 言えば言うほど、

 怪しい。

 ルナが、

 きょとんとした顔で言う。

「ミサキさんも、

 はいりたいの?」

「え?」

「おふろ」

「入らないよ!?」

 完全に火に油。

 数分後。

 状況を理解したミサキさんは、

 腹を抱えて笑っていた。

「あはは、

 ごめんなさい」

「からかわないでください……」

「でも」

 彼女は、

 少しだけ真面目な顔になる。

「ちゃんと距離、

 守ってますよね」

「当然です」

 即答。

「なら、

 安心しました」

 その言葉に、

 少しだけ救われる。

 その夜。

 ルナは、

 母親に迎えに来られた。

「今日は、

 本当にありがとうございました」

「いえ……」

 ルナは、

 帰り際に俺の服を引っ張る。

「おにーさん」

「ん?」

「きょうも、

 だいじょうぶだった?」

「……ああ」

「なにがあっても、

 ちゃんと守る」

 ルナは、

 安心したように笑った。

「じゃあ、

 ルナもがんばる」

 何を?

 聞く前に、

 彼女は帰っていった。

 夜。

 一人になった部屋で、

 俺は天井を見つめる。

「……ほんとに、

 俺でいいのか」

 答えは出ない。

 でも。

 誰かの「安心」が、

 今日もここにあった。

 それなら。

「……まあ、

 やれるとこまでやるか」

 雨音が、

 静かに続いていた。


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