第三話 お弁当を作っただけなのに、なぜか修羅場になった
その朝。
俺は、人生で一番どうでもいい理由で早起きしていた。
「……なぜ俺は、
小学生のお弁当を作っているんだ」
フライパンの上で、卵焼きが焼けている。
きっかけは昨日の夜。
「おにーさん……」
ルナが、しょんぼりした顔で立っていた。
「どうした?」
「……あした、
おべんとうのひ……」
「ああ、遠足か」
「でも……
ママ、あしたおしごと……」
なるほど。
状況、完全に理解。
「……分かった」
俺は、即答した。
「俺が作る」
「ほんと!?」
ルナの目が、きらきら光る。
——その笑顔で、
もう後戻りできなかった。
そして現在。
完成した弁当は、
ウインナー、卵焼き、ミニトマト、唐揚げ。
完全に無難。
「……まあ、
失敗はしてない」
そこへ、インターホン。
ピンポーン。
「……嫌な予感」
ドアを開けると、
そこには——
「おはようございます♪」
近所のお姉さん(仮称:ミサキさん)。
やたら美人で、
やたら距離が近い人だ。
「今、
いい匂いしました〜?」
「……あ、はい」
しまった。
「もしかして……
お弁当?」
「え、あ、まあ……」
ミサキさんは、
一瞬だけ沈黙してから、
「……あら?」
にっこり。
「朝から家庭的ですね」
その言い方、
誤解しか生まない。
数分後。
ルナ登場。
「おにーさん、
できたー?」
「できたぞ」
「わぁ!」
弁当箱を見て、
満面の笑み。
「ルナの!!」
……いや、
その言い方!
ミサキさんが、
意味ありげに微笑む。
「……へぇ〜」
「ち、違いますからね!?」
「何がですか?」
「いや、その……!」
説明する前に、
ルナが追撃。
「ルナね、
おにーさんのおべんとう、
だいすき!」
完全アウト。
そして、学校。
遠足の昼休み。
「……なんでこうなる」
俺は、なぜか
校外引率の保護者席にいた。
※ミサキさんが
ボランティアで参加している。
「奇遇ですね〜♪」
奇遇じゃない。
ルナが、弁当を広げる。
「みて!
おにーさんがつくったの!」
周囲の子どもたちが、ざわつく。
「えー、すごーい」
「パパじゃないの?」
「ちがうよ!」
ルナは、胸を張る。
「おにーさん!」
……誤解が加速していく。
そこへ。
「へぇ……」
ミサキさんが、
弁当を覗き込む。
「美味しそうですね」
「ふ、普通ですよ」
「……私の分は?」
「ないです」
即答。
「冗談です♪」
でも、目が笑ってない。
この人、
絶対面白がってる。
その時。
ルナが、小さく呟いた。
「……あ」
「どうした?」
ルナの指先が、
少し光った。
ほんの一瞬。
「……!?」
次の瞬間。
「わっ!?」
「なにこれ!」
ルナの弁当から、
唐揚げがハート型に変形。
完全に魔法。
「……まさか」
幸い、
誰も“変化の瞬間”を見ていなかった。
俺は、即座に弁当箱を閉じる。
「……ルナ」
「……ごめんなさい」
しょんぼり。
「うれしくて……」
……反省できてる。
よし。
「次から、
外ではやるな」
「うん……」
この会話、
完全に秘密結社。
帰り道。
「……今日は、
疲れたな」
ミサキさんが、
意味深に言う。
「でも……」
ちらっと俺を見る。
「いい“家族ごっこ”でした」
「ごっこじゃないです!」
即否定。
ルナは、
ぎゅっと俺の袖を掴む。
「おにーさん」
「ん?」
「ルナね、
きょう、
とってもたのしかった」
……それで、
全部報われる。
夜。
頭の中で音。
《イベント達成》
《家庭力:+5》
《ロリ満足度:MAX》
「満足度とか
数値化すんな……」
でも。
《次回イベント予告》
・お風呂上がり勘違い事件(※健全)
・ミサキさんの本気
・ルナ、異世界の記憶を少し思い出す
「……平穏は?」
まあいい。
今日も誰かが笑ってたなら。




