「メモ帳の一ページが、いつの間にか使われていた」
朝、机の上のメモ帳を手に取った。
仕事の用件を書き留めるための、いつものやつ。
ぱらっとめくると、途中の一ページだけ、文字がある。
『ぎゅうにゅう
たまご
あめふらない』
ひらがなで、三行。
「……最後のは、
買い物じゃないな」
消さずに、そのまま閉じた。
夕方、帰宅。
靴を脱いでいると、隣のドアが少し開く。
「おかえり」
「ただいま」
ルナは、手に消しゴムを持っていた。
「……それ」
「さっき、
おとした」
拾って、手渡す。
「ありがと」
短い会話。
少しして、キッチンで準備をしていると、ルナが言った。
「おにーさん」
「ん?」
「メモ、
かいた」
あっさり告白。
「見た」
「……だめだった?」
「いい」
即答。
「雨、
ふらなかったし」
「当たったな」
ルナは、少し誇らしそうに頷く。
夕飯は、簡単なもの。
牛乳は買った。
卵もある。
メモの通り。
「ちゃんと、
そろった」
「そろったな」
それで満足らしい。
食後、ルナは椅子に座って、鉛筆を回していた。
「……ねえ」
「ん?」
「つぎは、
なに、
かけばいい?」
メモ帳の話だ。
「必要になったら、
その時でいい」
「……そっか」
少し考えてから、言う。
「じゃあ、
あけとく」
「そうしてくれ」
帰り際。
ルナは、机のメモ帳をちらっと見てから言った。
「……つかっても、
いい?」
「いい」
「うん」
それだけで、安心した顔になる。
ドアが閉まる。
机に戻って、メモ帳を開く。
一ページだけ、使われた跡。
でも、続きは空白だ。
「……余白、
残ってるな」
書くことが増えたわけじゃない。
使っていい場所が、分かっただけだ。
メモ帳を閉じて、電気を消す。
明日も、
そのページは、そのままだと思えた。




