第23話 トランプ覚醒 3Pの幕開け
夜、買い物袋を下ろして、冷蔵庫を開けた。
いつもなら、ぎっしり詰めるはずの中段が、
一段だけ、妙にすっきりしている。
「……あれ」
自分で空けた記憶はない。
でも、理由は分かる気がした。
少しして、隣のドアが開く音。
「おにーさん」
「どうした」
ルナが、手に小さな容器を持って立っている。
「……これ」
中身は、切った果物。
色も形も、ばらばら。
「ママが、
たべきれないって」
「じゃあ、置いとくか」
冷蔵庫の中段に入れる。
ちょうど、空いていた場所。
「……ここ」
ルナが指さす。
「いい?」
「いい」
即答。
容器は、ぴたりと収まった。
椅子に座ると、ルナも向かいに座った。
テーブルの上には、コップが二つ。
「きょうね」
「ん?」
「ともだちが、
おやつ、
わけてくれた」
「よかったな」
「うん。
だから、
ルナも、
わける」
さっきの果物のことだ。
理由は、十分だった。
しばらくして、テレビをつける。
音は小さめ。
ルナは、画面より冷蔵庫の方をちらちら見ている。
「……だいじ?」
「何が」
「なくならない?」
「なくならない」
それで、安心した顔になる。
帰り際。
ルナは、靴を履きながら言った。
「ここ、
あけておいて、
いい?」
「いい」
「……うん」
ドアが閉まる。
冷蔵庫をもう一度開ける。
一段、空いている場所。
そこには、名前も印もない。
でも、
誰のための場所かは、はっきりしている。
「……自然だな」
無理に作った余白じゃない。
必要になって、空いた。
それだけだ。
電気を消して、ベッドに横になる。
明日も、
冷蔵庫の一段は、
そのまま空いている気がした。




