第22話 玄関に、もう一足分の余白ができた
朝、靴箱を開けた。
昨日まで気づかなかったけど、
一段だけ、少し余っている。
「……前から、
こんなだったか?」
答えは分かっている。
前は、なかった。
出勤前、隣のドアが開く音。
「おはよ」
「おはよう」
ルナは、ランドセルを背負って立っていた。
今日は、靴下の色が左右で違う。
「……左右」
「……まちがえた」
「替えるか?」
少し考えてから、首を振る。
「いい」
理由は聞かなかった。
夕方、帰宅。
玄関に、見慣れない靴が一足増えていた。
小さくて、少し新しい。
隣の部屋から声。
「……あ」
「来てたのか」
「うん。
ママ、
ちょっとだけ」
短い説明。
ルナは、玄関にしゃがんで靴を揃えていた。
「ここ、
あいてる」
靴箱の下段を指さす。
「……使うか」
「うん」
ためらいはない。
置いてみる。
ぴったり、収まる。
夜。
椅子は二つ並んでいる。
ルナは、椅子の上で足を揺らしながら本を読んでいた。
「ねえ」
「ん?」
「ここ、
せまくない?」
「ちょうどいい」
「……そっか」
それで話は終わる。
帰り際。
ルナは、玄関で一度だけ振り返った。
「……あしたも」
「ある」
「うん」
ドアが閉まる。
一人になって、靴箱を見る。
余白は、まだ残っている。
でも、空っぽじゃない。
「……増やすって、
こういうことか」
特別な決断はしていない。
約束もしていない。
ただ、
必要な分だけ、
場所ができただけだ。
電気を消して、ベッドに入る。
明日も、
その余白はそこにある。
それでいい。




