第18話 性欲を越えて 誘いは高石から
朝、玄関の棚に鍵が二つ並んでいた。
俺のと、
もう一つ。
「……あれ」
見覚えはある。
昨日、慌てて置いていったやつだ。
触らずに、そのままにして出勤した。
夕方。
帰宅すると、隣のドアが少し開いている。
「ただいま」
言うと、向こうから声が返ってきた。
「おかえり」
それだけで、胸が静かになる。
少しして、ルナが鍵を持って現れた。
「これ……」
「置いといた」
「……うん」
鍵を棚に戻す。
迷いなく、同じ場所に。
「ここ、
きまった?」
「みたいだな」
小さく頷く。
夜。
宿題を終えたルナは、椅子に座って本を読んでいた。
ページをめくる音が、一定のリズムで続く。
「……ねえ」
「ん?」
「かぎ、
なくしたら、
こまる?」
「困る」
「……でも」
少し考えてから。
「ここに、
おいてあったら、
へいき?」
「大体な」
その答えで、安心した顔になる。
帰り際。
ルナは玄関で一度だけ立ち止まった。
「……また、
ここに、
おいて、
いい?」
「いい」
即答。
「……うん」
ドアが閉まる。
棚を見る。
鍵は二つ、
ちゃんと同じ向きで並んでいる。
持ち主が分からなくなることはない。
でも、
どちらも“戻る場所”は同じだ。
「……増えたな」
数じゃない。
意味が、だ。
電気を消して、ベッドに入る。
明日も、
鍵はそこにある。
それでいいと思えた。




