第17話 約束じゃない約束が、毎日続いている
夕方、コンロの火を止めたところで、インターホンが鳴った。
ピンポーン。
「……はい」
ドアを開けると、ルナが立っている。
今日は手ぶらだった。
「どうした」
「……なんでもない」
でも、帰らない。
「入るか」
小さく頷く。
鍋の中は、具だくさんのスープ。
特別じゃない、いつものやつ。
「いいにおい」
「もうすぐだ」
ルナは、椅子に座って足を揺らす。
「きょうね」
「ん?」
「がっこうで、
あしたのよてい、
きかれた」
「なんて答えた」
「……とくに、ない」
それは、前なら少し寂しい言い方だった。
でも今は違う。
「間違ってないな」
「うん」
足の揺れが止まる。
食卓に並べる。
スープと、パン。
「いただきます」
「いただきます」
並んで言う。
会話は少ない。
でも、空気は落ち着いている。
「おかわり、
いい?」
「どうぞ」
当たり前のやり取り。
食後、片付けをしていると、ルナが言った。
「……あしたも」
言いかけて、止まる。
「ん?」
「……あしたも、
ここ、
いる?」
聞き方が、慎重だった。
「いる」
即答。
「じゃあ」
それだけで、満足そうに笑う。
帰り際。
玄関で靴を履きながら、ルナが振り返る。
「……やくそく、
しなくて、
いいよね」
「しなくていい」
「……うん」
それで、ドアが閉まる。
一人になった部屋で、椅子に座る。
約束はしていない。
決めてもいない。
でも、続いている。
「……悪くないな」
明日の予定は、特にない。
それでも。
明日も、
同じ時間に、同じやり取りがある気がした。
電気を消して、
静かな部屋に身を預けた。




