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第14話 名前を書かなくても、分かるもの


 朝、玄関の棚に、見覚えのないハンカチが置いてあった。

 白地に、小さな星の模様。

「……増えたな」

 傘の次は、これか。

 名前は書いてない。

 でも、誰のものかは分かる。

 そのままにして、出勤した。

 夕方、帰ると、廊下の電気が点いていた。

 隣のドアが、少しだけ開いている。

「おにーさん?」

「帰った」

 ルナが顔を出した。

 今日は髪を二つに結んでいる。

「……あのね」

「ん?」

「これ」

 差し出されたのは、さっきのハンカチ。

「わすれた」

「置いといた」

「……ありがと」

 それだけ言って、手を引っ込める。

 でも、ドアは閉めない。

 少しして、ルナはノートを持ってきた。

 今日は作文。

「『すきなばしょ』」

「どこにした」

「……ここ」

 迷いはなかった。

 俺は、黙って続きを読む。

 字はまだ拙い。

 でも、言葉はちゃんとしている。

『ここは、しずかで、

 あさにひかりがはいります。

 ただいまって、いえるから、

 すきです。』

 そこで止めた。

「……いいな」

「ほんと?」

「ああ」

 それ以上、評価はいらない。

 夜。

 雨は降っていないのに、風が強い。

 窓が少し鳴る。

 ルナは、ソファの端で膝を抱えていた。

「こわい?」

「……すこし」

「来い」

 隣に座る。

 肩が触れるくらいの距離。

 それで、十分だった。

 しばらくして、ルナが言う。

「おにーさん」

「ん?」

「なまえ、

 かかなくても、

 わかる?」

「分かる」

「……じゃあ、

 いい」

 何が、とは聞かなかった。

 多分、聞かなくていい。

 帰る前、ルナは玄関で靴を履きながら言った。

「ハンカチ、

 ここに、

 おいといて、

 いい?」

「いいぞ」

「……うん」

 それだけで、安心した顔になる。

 ドアが閉まる。

 棚の上には、

 白いハンカチがそのまま置いてある。

 名前はない。

 でも、間違えようがない。

「……増えても、

 ちゃんと分かるな」

 電気を消して、ベッドに入る。

 風の音は、いつの間にか止んでいた。

 静かな夜だった。

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