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第13話 置いていってもいい傘が、一本増えた朝
朝、玄関を出ると、傘が二本並んでいた。
一本は俺の。
もう一本は、小さくて、色が少し派手なやつ。
「……昨日の」
持ち主は分かっている。
そのままにして出勤した。
夕方、帰宅すると、廊下に靴が一足多い。
ドアを開ける前に、声がした。
「おにーさん」
「起きてる」
ルナだった。
「……かさ」
「置いといた」
「うん」
それだけで会話は終わる。
少しして、ルナは宿題を持ってきた。
今日は算数。
「ここ、
なんか、
まちがえた」
「どれ」
指で示されたところを見る。
「合ってる」
「……ほんと?」
「ああ」
ルナは、少し考えてから、ノートに丸をつけた。
「できた」
その言い方が、前より落ち着いている。
窓の外で、風が吹いた。
傘が必要なほどじゃない。
ルナは、窓を見て言った。
「きょう、
もってかなくて、
よかった」
「そうだな」
「でも」
間を置いて。
「ここに、
あっても、
だいじょうぶ」
それは、傘の話じゃない。
「大丈夫だ」
短く返す。
帰り際。
ルナは、玄関で一度だけ振り返った。
「……あしたも」
「ある」
「うん」
それで納得した顔になる。
夜、電気を消す前に、玄関を見る。
傘は、まだ二本並んでいる。
どちらも、誰のものかははっきりしている。
「……増えても、
困らないな」
そう思って、ベッドに横になった。
外は静かだった。




