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ロ 乳首の運動について



 引っ越し初日。

 俺は確信していた。

 ——この世界、絶対に俺を平穏に暮らさせる気がない。

「おにーさん!」

 背後から聞こえた、やたら元気な声。

 振り返ると、そこにいたのは——

 小さい。

 いや、正確に言うと、

 小さすぎる。

 銀色のツインテール、赤いリボン、

 ランドセルより先に目に入る丸いほっぺ。

「えっと……迷子?」

「ちがうよ!」

 少女は胸を張った。

「となりにひっこしてきた、

 ルナです!」

「……となり?」

 俺が住むアパートの隣室。

 そこから、若い女性(たぶん母親)が頭を下げてきた。

「すみません〜!

 ちょっと人懐っこくて……」

「いえいえ……」

 その瞬間。

 ルナが、俺の手をぎゅっと握った。

「やっと、あえたね」

「……はい?」

 母親が固まる。

 俺も固まる。

「え、ルナ……?

 “やっと”って……?」

 ルナは、真剣な顔で言った。

「だって、

 まえのせかいでも、

 おにーさんといっしょだったもん」

 ——はい?

 数分後。

 俺は自室で、正座していた。

 向かいにはルナ。

 お茶を飲んでる。普通に。

「説明、してもらっていい?」

「うん!」

 元気よく頷く。

「ルナね、

 まえは“まほうのくに”にいたの」

「はい」

「でも、あぶなくなって……

 きづいたら、ここにいた!」

「……異世界?」

「うん!」

 にこっ。

「そしたらね、

 おにーさんのにおいがしたの!」

「においで分かるな」

「だって!」

 ルナは指を立てる。

「おにーさんは、

 ルナをたすけてくれたひとだから!」

 ……いや、知らん。

 絶対知らん。

 その日の夜。

 俺はベッドで天井を見つめていた。

「……完全に、

 なろう展開じゃん……」

 異世界。

 謎の記憶。

 なぜか好感度MAXの幼女。

 しかも。

 ピコン。

 頭の中に、音。

 《育成系ラブコメルートが起動しました》

「待て待て待て」

 《対象:ルナ》

 《現在好感度:100(固定)》

「固定ってなに!?」

 《警告:過保護スキルが自動付与されます》

「いらん!!」

 翌朝。

 学校へ向かうルナが、俺の服の裾を引く。

「おにーさん、いってきます!」

「……いってらっしゃい」

 母親が小声で言う。

「すみません……

 なぜか、あなたにだけ懐いてて……」

「いや……俺も理由知りたいです」

 ルナは、玄関で振り返る。

「おにーさん!」

「ん?」

「ルナね、

 おおきくなったら——」

 俺、身構える。

「——おにーさんに、

 おべんきょうおしえてもらうの!」

 ……健全。

 よかった。

 でも。

「だから、

 どこにもいかないでね」

 その言い方が、

 妙に重かった。

 ドアが閉まる。

 俺は、ため息をついた。

「……これ、

 平和なラブコメで済むのか?」

 頭の中で、また音。

 《次回イベント予告》

 ・学校参観での勘違い

 ・近所のお姉さんとの修羅場(※誤解)

 ・ルナ、謎の魔法を発動(小規模)

「……絶対、

 面倒なやつじゃん……」

 でも。

 玄関に残った、

 小さな靴を見て思う。

「……まあ、

 悪くはないか」

 平穏は、もうないけど。


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