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異世界行っても料理する ~料理して材料集めてまた料理~  作者: デビルぱんだ


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三話 アイテムボックスと森脱出

 出発する前に、俺はふと現実的な問題に突き当たった。 燻製にした分はあるが、狼の巨体から獲れた肉はまだまだある。背ロースだけでも数キロ、全部合わせれば数十キロの食料だ。


「……流石に、全部は担いでいけないよな」


 せっかくの貴重な食糧だ。置いていくのは忍びない。だが、大きな肉の塊を抱えて森を歩くのは自殺行為だ。 そう思った瞬間、脳の裏側に「ある感覚」が閃いた。


(……しまえる?)


 また、あの「勘」だ。 俺は吸い寄せられるように、地面に並べた肉の塊に手をかざした。


「……収納」


 その言葉が口をついて出た瞬間、目の前の光景が歪んだ。 肉の塊の周囲の空間が水面に石を投げ込んだかのように波打ち、次の瞬間には巨大な肉が跡形もなく消え失せていた。


「えっ……?」


 慌てて周囲を見渡すが肉が転がっていった様子はない。 代わりに俺の脳内には「リスト」のようなイメージが浮かび上がっていた。


【アイテムボックス】

・魔狼の肉(上質):45kg


「……まじか。アイテムボックスまであるのかよ」


 あまりのチートっぷりに乾いた笑いが漏れた。 試しに先ほど苦労して作った「胃袋の水筒」に意識を向けるとそれも一瞬で空間に吸い込まれ、念じるだけで再び右手に現れた。

 出し入れは一瞬。重さも感じない。 これならどれだけ獲物を狩っても持ち帰ることができるし、予備の武器や資材も持ち運び放題だ。


「これなら、前準備なんて必要なかったかもしれないな……」


 苦笑いしながらも、俺は残りの素材——骨や牙、まだ使えそうな皮の端切れまで、掃除機のように片っ端から「アイテムボックス」へと放り込んでいった。

 地面には、解体した際の血痕だけが残り、あれほど巨大だった狼の痕跡は消えた。 身軽になった俺は、サバイバルナイフの感触を確かめ、今度こそ迷いなく歩き出した。


 アイテムボックスという究極の快適性を手に入れた俺は、森の深部へと足を踏み入れた。 目指すは、木々の隙間から時折のぞく、遠く開けた空——森の外だ。

 だがこの森が「ただの森」ではないことを、新たな「勘」が段階的に証明していた。


 最初に遭遇したのは樹上から音もなく飛び、鋭い鉤爪を持つ大猿だった。 死角からの奇襲。


「……遅い」


 回避しナイフでの攻撃。 ちょっと補正のかかった一撃は、大猿の強靭な皮膚をバターのように裂いた。 ドサリと落ちた死体に手をかざし間髪入れずに「アイテムボックス」へ入れる。

 先に進むと現れる魔物の種類は増えていった。 1メートルを超える大カマキリ、毒を飛ばしてくる巨大な花、さらには最初の狼よりも二回りほど小さいが群れで行動する狼。

 大カマキリは鎌が振り下ろされる攻撃を見切り、関節をナイフで一突きしてから喉を攻撃。

 巨大な花は毒の霧がかかる前に、落ちていた石を弾丸のような速度で投げつけ核を粉砕する。

 狼の群れは囲まれる前に最速で踏み込み、一匹ずつ確実に喉元を切り裂く。

 「必死」だったはずの戦闘は、いつの間にか「作業」まで変わっていく。 倒しては収納し移動する。


「……なんだろうな。この、自分が自分じゃないような感覚」


 ナイフ一本で進んでいく姿は、魔物から見れば悪夢のような光景だろう。


 視界の悪い湿地帯通りをかかったときのことだ。 パキリ、と頭上で音が鳴る。


(危ない――!)


 脳が警報を予告。蛇が矢のような速さで牙を剥き頭を狙って突っこんできた。

 首をわずかに動かして牙をかわすと俺は跳躍。 空中で無防備に晒された蛇の腹部へ、サバイバルナイフを突き立てる。ナイフは鱗を紙のように引き裂きそのまま蛇の巨体を縦に両断っていた。


「毒蛇か……。牙の付け根に毒袋があるな」


 見たことのない蛇の構造が、手に取れるように分かる。


 さらに進むと今度は「ゴブリン」のような小鬼の一団に囲まれた。 10匹はいる。

 本来ならば、多勢に無勢。 しかし今の俺には「死角」という概念がなかった。意識せずとも、敵の呼吸、足音、筋肉の弛緩がすべて情報として流れてくる。

 地を蹴ると一歩の踏み込みで先頭のゴブリンとの距離をゼロにする。ナイフを振るい首を飛ばし、 後ろ回し蹴りで吹き飛ばし、勢いそのままに喉元を切り進んでいく。

 最後のゴブリンを倒した時、俺は自分の呼吸が全く乱れていないことに気づいた。返り血の一滴さえ俺の頬には届いてない。



「これは……魔力を回復させる『青精草』。こちらは傷を塞ぐ『止血苔』か」


 名前なんて知らないはずなのに、見た瞬間その用途と価値が頭に流れてくる。

 そもそも魔力って。もしかしたら魔法とかあるのか?と期待してしまう。


(便利すぎて、怖いくらいだ)


 俺は森の資源を管理する主のように、価値のあるものを片っ端からアイテムボックスへ収納していった。 途中、大きな岩陰で見つけた「魔力を持った鉱石」も、ナイフの背で軽く叩くだけでポロリと落ちアイテムボックスに収納していった。


 しばらく進むと立ちふさがったのはこれまでの魔物とは格の違う存在感を持った巨獣だった。

 それは「岩塊」が似合うような、巨大な猪だった。 1.5メートルの狼が子供に見えるほどの体。 剛毛は針金のように太く、その下にあるのは文字通り岩のように硬質化皮膚だった。


(……こいつは、今までのようにはいかないか?)


 そう思ったのも束の間、恐怖ではなく冷徹な「計算」を始めた。 ドォォォォォォン! と床を揺らし、猪が突進を開始する。 その巨大な牙が、まるでショベルカーの爪のように床を削り取りながら迫ってくる。

 受ければ骨ごと粉砕されるだろう。だが、視界はやはり「スローモーション」に切り替わった。 猪の足首の関節がほんの外側に開く。


(右に来る――)


 突進が鼻先をかすめる瞬間、俺は紙一重で横に飛ぶ。突風のような圧力が頬をなでる。

 猪が反転し、睨んだと思ったらまた突進してきた。 俺は逃げずに正面から間合いを詰めてナイフを振るった。ナイフと牙がぶつかり合い火花が散る。鋼がぶつかり合うような甲高い響きがあった。普通の刃物なら一撃で折れている。

 怒り狂った猪が今度は牙を低く下げ、必殺の突き上げを繰り出してきた。 俺はその牙を「踏み台」にし、 下から突き上げられる牙の側面に足をかけ、その勢いを利用して空中に舞う。

 そこには、分厚い皮膚の重なりから漏れる「急所」の鼓動が見えた。


「――終わりだ」


 重力とチート級の腕力を一点に集中させ、ナイフを逆手に叩き込む。あれほど硬い皮膚を、ナイフが根元まで突き抜けた。


「グオォォォォオォ……ッ!!」


 断末魔の叫びと共に、猪の巨体が前めりに崩れ落ちた。

 静寂が戻った。 私は返り血を拭うこともせず、静かにナイフを鞘に収めた。


「……今の、我ながら人間業じゃないな」


 あの巨獣を相手に一度も呼吸を乱さず、冷徹に「解体」するように殺した自分。俺は倒れた猪の鼻先に手をかざし、その山のような巨体をアイテムボックスに収納した。


 猪との激戦を終えても、俺の体は疲れを知らなかった。それどころか、強敵を倒した高揚感が全身に馴染み、五感がさらに研ぎ澄まされていく。

 道中、倒木に生えた「虹色に輝くキノコ」や、崖の隙間に群生する「銀色の薬草」が目に留まる。


「……これも、これも全部『資源』だ」


 手をかざす。空間が波打ちそれらは次々とアイテムボックスへ飲み込まれていった。今の俺は、歩くたびに富を蓄える巨大な磁石のような存在だった。

 

 森の出口を目指し、俺は再び歩き出した。チート補正がかかった俺の脚は、木の根が複雑に絡み合う斜面を、まるで見えない平坦な道を走るかのように滑らかに捉える。 時折行く手を阻む太い蔓が現れるが、俺は立ち止まることすらしない。すれ違いざまにナイフを閃かせ、コンマ数秒の間に銀光を一本引くだけで、蔓は断面から鮮やかな緑の汁を飛ばして弾け飛んだ。

 

 進むにつれ、木々の隙間から差し込む光の束が太くなっていく。 腐葉土の重苦しい匂いに混じって乾いた風と、足裏に伝わる柔らかな腐葉土から乾いた地面に変わっていく。


「やっと、か」


 生い茂る木々の隙間から突き抜けるような青空と、もののない地平線が見えた瞬間、俺は小さい息を限界まで出した。

 異世界に放り出されてからどれくらい歩いたか。 普通なら絶望するような状況だが、「勘」とチートのおかげで生きている。改めて森での出来事を振り返る。


「サバイバルなんて柄じゃないと思ってたけど……。「勘」がなきゃ最初の数十分で終わったんだろうな、俺」


 しかし、それ以上に自分の意思ではなく「何かに選ばれている」ような不思議な感覚が、小さな澱のように胸の底に溜まっていた。



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