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異世界行っても料理する ~料理して材料集めてまた料理~  作者: デビルぱんだ


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二話 火起こしと食事と準備

 俺は周囲を見渡し、火の種を探した。 幸いなことに、周囲の地面には乾燥した立ち枯れの枝や、手頃な大きさの石がいくつか転がっている。


(火の起こし方なんて、動画サイトのキャンプ動画で一度見たきりだ。だけど……)


 確信があった。今の俺なら、石と鉄があれば火が作れる。 俺は手近な枯れ草を両手で揉みほぐし、鳥の巣のような形に整えて地面に置いた。さらに、指先ほどの太さの小枝をその周囲にピラミッド状に組み上げる。

 次に、手に持ったサバイバルナイフの背を、足元に落ちていた硬そうな黒い石に叩きつけた。

 パチン、と火花が飛ぶ。


「……いける」


 二度、三度。ナイフのはがねと石がぶつかり、火花が白く瞬く。そのうちの一粒が、揉みほぐした枯れ草にふわりと舞い降りた。 俺は膝をつき、赤く光る一点に、愛おしむように優しく、けれど力強く息を吹きかけた。

 わずかな灰色の煙が立ち上り、やがてゆらゆらと小さなオレンジ色の火が生まれた。 火は小枝へと燃え移る。パチパチとはぜる音とともに、森の冷気を押し返すような熱が立ち上がった。


「できた……」


 現代日本で育った俺が、火打石の要領でこんなに簡単に火をつけられるはずがない。やはり、俺の体には「生存」に関する補正がかかっている。理屈は分からないが、体が勝手に「正解」を知っているようだ。

 俺は焚き火の勢いが安定するのを待ってから、解体したばかりの狼の背ロースを手に取った。 1.5メートルの巨体を支えていたその肉は、驚くほど弾力があり、脂がのっている。

 適当な枝をナイフで削って串を作り、肉の塊を突き刺す。それを火の傍らに突き立てた。 じりじりと、肉の表面が熱に焼かれていく。

 立ち上る煙とともに、鼻腔をくすぐる芳醇な香りが広がった。 獣臭さはほとんどない。むしろ、上質な和牛を焼いているときのような、甘く濃厚な脂の匂いだ。


(早く、早く食べたい……!)


 表面に脂が浮き出し、こんがりときつね色に変わっていく。 本来なら芯まで火が通るのを待つべきだろうが、俺の「勘」が「もう大丈夫だ」と告げていた。

 俺は串を掴み、熱々の肉にかぶりついた。


「っ……うまい……!」


 口に入れた瞬間、溢れ出す肉汁。 噛み締めるたびに、野生のエネルギーがダイレクトに喉を通って全身に染み渡っていく。 食感は驚くほど柔らかい。それでいて、噛み切る際の快感は凄まじかった。


(なんだこれ、力が湧いてくる……)


 一口、また一口と、俺は夢中で肉を貪った。 喉を通るたびに戦いで消耗した神経が修復され、筋肉の一本一本が作り替えられていくような、不思議な全能感が脳を駆け巡る。 ただの食事ではない。これは「摂取」であり、この世界のことわりを取り込む儀式のようでもあった。

 気づけば、大きな肉の塊が三つ、俺の胃袋の中に消えていた。 あれほどの空腹感は嘘のように消え、代わりに内側から突き上げてくるような、熱い活力が体を満たしている。


 ふと、自分の手元に目をやった。 肉を掴んでいた指先、そこには狼の返り血がついていたはずだ。しかし、焚き火の光に透かしてみると、そこには汚れ一つ残っていない。 いつの間にか、俺の肌が「汚れ」を弾き、浄化しているようだった。


「……本当に、俺は何者になっちまったんだ?」


チート。異世界転生モノの定番。 それが自分の身に起きていることを、俺は認めざるを得なかった。 1.5メートルの化け物をナイフ一本で、それも汗一つかかずに屠り、その肉を喰らって糧にする。 それはもはや、ただの人間が行えることではない。

 俺は立ち上がり、焚き火の明かりが届かない深い森の奥を睨んだ。 恐怖はない。 むしろ、次に現れる「獲物」を期待している自分さえいた。


「……まずは、この森を抜けるか」


 狼の肉を食らい活力を取り戻した俺は、すぐさま次の行動に移ることにした。 このまま闇雲に歩き出すのは得策ではない。ここは未知の異世界だ。いつ次の魔物が現れるかもわからないし、この深い森を抜けるのにどれだけの時間がかかるかも不明だ。


「まずは、準備だな。手ぶらで森を彷徨うほど、俺は能天気じゃない」


 独り言を口にすると、驚くほど冷静な思考が脳内を駆け巡った。戦いの時と同じだ。今何をすべきか、何が必要か、まるでベテランの冒険者が脳内でアドバイスをくれているような感覚になる。


 俺はまず、残った狼の肉に目を向けた。あんなに食べたのに、まだ巨体の大部分が残っている。これを置いていくのは、あまりにももったいない。俺は焚き火の煙がよく当たる位置に、即席の木組みを作った。そこに薄く切り分けた肉を並べていく。本来なら塩が必要だが、そんなものはない。だが「勘」が、この魔物の肉は魔力を帯びているため、煙で燻すだけで数日は腐らず、さらに体力を回復させる効果が強まると告げていた。

 次に着手したのは、自分の装備だ。今の俺は、元の世界で着ていたカジュアルな服のままだ。耐久性に不安がある。俺は狼の毛皮の中でも、特に硬く丈夫だった背中の部分をナイフで丁寧に切り出した。

 サバイバルナイフの先端で皮に穴を開け、狼の腱を細く割いて紐代わりにする。それを靴の周りや脛に巻き付け、即席のレガースを作り上げた。不格好だが、驚くほど軽い。それでいて普通のナイフ程度で攻撃しても貫通しないほどの強靭さを手に入れた。

 水場を探す必要があったが、これも「勘」が頼りになった。風に乗ってくる湿り気、草花の生え方、それらを見るだけで、数百メートル先に清らかな湧き水があることが直感でわかる。

 問題はそれをどうやって持ち運ぶかだ。まさか手で掬って歩くわけにはいかない。

 俺の視線は、解体を終えた狼の残骸へと向いた。


「……これなら、使えるか」


 俺が目をつけたのは、狼の「胃袋」だった。 大型獣の胃袋は強靭な筋肉の袋だ。これを適切に処理すれば、原始的だが丈夫な水袋になるはずだ。

 俺はサバイバルナイフを使い、慎重に胃袋を切り出した。独特の臭気が鼻を突くが、不思議と吐き気は催さない。むしろ、どう処理すればいいかという手順が、脳内に図解されるように浮かんでくる。 まずは中身を捨て、近くの湧き水まで運んで内側を徹底的に洗った。水流にさらすと、ぬめりや臭いが驚くほどの速さで消えていく。

 胃袋の開口部を、狼の腱を割いた紐で縛り上げる。俺は近くにあった滑らかな小枝をナイフで削り、中空の筒状の「栓」を即席で作った。胃袋の端にその筒を差し込み、上から紐で何重にも固く巻きつける。これで、筒の穴から水を飲み、使わないときは木栓を差し込んでおけば密閉できる。

 最後に、俺は焚き火の灰を少しだけ水袋の表面に擦り付けた。こうすれば皮が腐りにくくなるし、水の冷たさも保てる……はずだ。なぜそんな知識があるのか自分でも分からなかったが、手が勝手に動いた。仕上げに狼の皮の余りで肩掛け用のストラップを作り、水袋に固定する。

 出来上がったのは、不気味な見た目ながらも機能的な「魔狼の胃袋水筒」だ。 中一杯に水を詰めると、ずっしりとした重みが伝わってきた。2リットル以上は入りそうだ。


 準備を終える頃には、燻製肉ジャーキーもどきが仕上がっていた。それを狼の皮で作った簡易的な袋に詰め、肩にかける。俺は作り上げたばかりの道具を装備し、本格的に森を抜け、文明の光を探すために歩き出した。




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