第7話「開店」
「それでは、まずわしが客第一号かのー」
「え? あ、あぁ、了解」
まだ自室とか確認してないんだけどなー。
ほかにも地下室もあるらしい。
「あーとりあえず、酒でいい?」
「おう、それしかあるまい」
一応ツマミをあるよ。
ちょっとだけな!
「ん。じゃー、せっかくだし、好みを言ってくれ──」
「む? 強けりゃ何でもええぞ」
へいへい。
酒の作り甲斐がないねー。
「じゃー、ほい!」
元の世界に通じるアイテムボックスから取り出したとっておきのもの。
「む……! こ、これは──」
「はは。数はもうないけど、今日は特別だ」
カランッ。
ガラスのショットグラスにお高い銘柄のウォッカを注ぐ。
そして……冷凍庫にわずかに残っていた氷。
「こ、氷じゃと? む、むぅ……小僧、何者じゃ」
「……ただのアル中さ。元、な」
そういってウォッカのロックを差し出す。
それをじっと見つめていたゴードンは、ゆっくりと──そして、噛み閉めるように口にした。
「………………うまいのぉ」
「だろ」
そして、静かに笑う二人。
「ごちそうになったわい」
チリンッ♪
わかっている仕草で、グラスの下にお代を置いていくゴードン。
それはなんと金貨だった。
「おい、一杯でこれは多いぞ」
「なに、いい酒じゃったしの。わしの気持ちじゃ」
「そっか。ありがたくもらっとくよ」
くくくっ。
「変わった奴じゃのー。まぁええわ。ここのことは宣伝しておいてやる──仕入れもいるじゃろ?」
「あ、あぁ助かる」
「なーに、また寄らせてもらうよ。その時は村の商人と来るわい」
「助かるよ、長持ちする食材を頼む────あぁ、そうだ!」
やばい。
大事なこと忘れてた。
「なんじゃ?」
「あー、その……」
チラリ。
外には無限の荒野が広がっている。
「ここ、治安大丈夫?」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「それじゃ、また来るからのー」
そういって去っていくゴードンに手を振る田中。
いよいよ一人だ。そして、いよいよ開店だ。
思い付きで始めてしまったが、これ大丈夫か……?
「──ま、なるようになるか」
ダメなら死ぬだけだ。
それに、ここまでやってからは転生神も邪魔をしてこない。おそらく、田中が無為に死を選ぶことをやめてからは、放置する方針なのだろう。
あの神だって暇じゃないだろうしね。
「それにしても、モンスターかー」
チラッ。
視線のさきには食器棚のうえ──。
二階に向かう吹き抜けの真ん中に鎮座するホブゴブリンの頭骨があった。
「……これが魔物除けになるのかー」
そう。これはただの装飾ではないらしい。
どうやら、魔法アイテムの一種らしく、ドワーフの技術の粋を活かした魔除けなのだそうだ。
少なくとも、これを飾っておくと、
高い確率でこれ以下の魔物が近づいてくることはないそうだ。……もちろん100%ではないらしいけどね。
「……だから、一応武器も注文しといたけど、いつになることやら」
別れ際に調理器具の他、護身のナイフを買っておいた。占めて銀貨5枚と割高だけどないよりはいい。
腰に差しておけば丸腰よりはマシなはずだ。
それ以外にも万能レシピで「西部劇」の舞台にぴったりの武器も探して、製法ごと伝えて頼んでおいた。もっとも、諸々初めての武器だし、存在しないものもあるので完成はいつになるかわからないとのこと。
まぁ、あまり期待しないで待っておこう。
「それよりも、客くるのかねー」
一番近い人里はここから3里。
だが、ここも一応は街道なのだそうだ。
……もっとも、荒野を迂回するために北方よりに大きな街道が整備されてからは、ここはいわゆる旧街道で、滅多に使われることはなくなったらしい。
おかげで今となっては、例の村の住人か、商人が近道に使うくらいなんだそうだ。
……あとは、もの好きが通るくらい。
「だから、前の酒屋も潰れたんだろうなー」
ま、いいか。
別に商売繁盛したいわけじゃないし──余った人生。ミジンコになるまでの時間だ。
そして、酒を克服するまで。
「よーし、適度にがんばっていこー」
そうして、対して悩みもせずに店は開店したのであった。
食器は元の世界にあったものと、集落の雑貨屋で購入したものが少し。
お酒は当面部屋にため込んだ大量の酒を使う。
そして、食材はこの世界の物をいくつか。
それらをもとにチートスキル『万能レシピ』の力でやっていくだけだ。
こうして、異世界居酒屋ならぬ、異世界サルーンが荒野の隅にひっそりと開店したのであった。




