第5話「西部劇で男が美味そうにガツガツ食べていたあの豆料理」
「ふわぁぁ。つっかれたー」
どさっ。
その日はさすがに疲れたので村唯一の宿屋に逗留した田中。
幸いにも値段は安く、一泊銅貨30枚。飯付きで35枚だった。
「さて、店の品はっと」
そうして、昼間に雑貨屋で見繕ってもらったものをベッドに広げていく。
「……乾燥肉、柚子とレモンみたいな果実が2種。それにハッカみたいなハーブ類、か──」
あとは、
卵、ヤギの乳とチーズ、そして豆類くらいなもの。
「んー、ろくなもんがないな」
とても居酒屋で使える品ではない。
他にも今は店にないが、時期になったらとれる作物や近隣でとれる獣。または、近くの村の特産品もリストにまとめてもらった。
これらは時間は少々かかるが取り寄せることも可能らしい。
「ただ、これじゃ居酒屋は厳しいかもなー」
別に居酒屋にこだわっているわけではないが、酒場といえばそれしかイメージが浮かばないのだ。
というか、日本で飲むと言ったら居酒屋か、ちょっとお高めのお店くらい。あとはファミレス──。
……うーむ、どれもしっくりこない。
いっそ、酒関連はあきらめて異世界冒険でもするか?
なろう小説よろしく、チート級のスキルでびゃー! ってね!
「……って言っても、ボロボロの身体じゃ無理だわなー」
実はここまで歩くだけで疲労困憊だった。
ただでさえ、4日間のまず食わずで歩き通し、オマケに酒でボロボロになった体のまま転生しているのだ。とても、勇者田中として生きていくのは無理だろう。
なので『転生薬』をつくってミジンコになる案は一生保留だ。
「ま、できるもんでなにかしら作──」
ゴンゴンっ!
「お客さんー。ごはんだよー。ここに持ってるくる? それとも食堂ー?」
「あー、下におりまーす」
外から呼びかけるのは宿の看板娘さんだ。
そばかすがチャーミングな若い娘さんだったな。どうせなら、その子に給仕してもらおうっと。
そんなちょっとした下心で食堂に降りると、数人の村人が酒を飲みながら管を巻いているほかは他に客はいない。
そこに、給仕の娘さんが大鍋に入った料理を雑に盛り付け始める。
「メルシ—ちゃん、メニューは?」
「いつものでーす」
ふーん。
メルシーちゃんっていうのね。
中年の村人達のやらしい視線を適度に交わしながらクルクルと料理を盛り付けていく。
そして、田中の順番……。
「はい、どーぞぉ」
ベチャ……!
「うぉ、すげー見た目」
ぐー。
だが、見た目はアレだが、温かそうな食事をみてお腹が鳴る。
何かよくわからないけど、豆料理っぽいもの。あとは、半分に切ったデカイ黒パンだ。
どれもおいしそうな見た目ではないが、空腹の今は結構魅力的なメニューにみえた。
「……これ、おかわりある?」
「はーい。欲しいならいくらでもー、残したら豚の餌にするだけですし」
豚の餌って……。
まぁいいか。
「じゃー、ちょうだい──」
「はーい」
お皿にどん! どん! ベチャ。
「……もうちょい」
どん、どん! ベチャリ。
「もうちょい──」
「……いっそ、これごとどーぞ」
そういって、めんどくさそうに大鍋をどん!
「悪いね」
あとは水差しに入ったお湯をカップに注げば、今日の晩飯だ。
この世界に来て初めてのまとも(?)な飯──……うん!
──うまい!
多分、豆料理だと思うが、それを木の匙ですくってガツガツ。
そして、時々パンをむしってモグモグ。
見た目はあれだけど、結構うまい。お腹にドシっとたまるし、なにより塩味がよく効いている。
「うん、うん、うん!……うん」
──うまいね!
その食べっぷりがあまりにもよかったのか、店の全員が呆気に取られて見ている。
「お客さん……おいしい?」
「ん!」
口の中がパンパンなので、とりあえずサムズアップで答える。
「ふーん。変わってるねー」
「けっ。メルシーちゃんに色目つかってんのさ」
ちげーわ、ばか。
実際うまいの!
素朴な味と、ベチョっとしたこの雑な盛り付けと味が硬いパンによく合うのよ。
なんつーか、あれだよあれ。
あの、昔見た──西部劇の……。
……西部劇?
「あ──」
からんっ♪
「お客さん?」
「……それだ」
「それ?」
そうそれだよそれ!
がつがつがつっ!!
──ごくん!!
綺麗に残りもパンで拭って──ペロリ。
「ありがとう!」
「きゃ!」
がっしりと、メルシーちゃんの手を掴んで上下にブンブン!
そのまま、軽くハグして感謝を伝えると、上機嫌で部屋に戻る。
そう、答えはここにあった。
この料理で思い出した────この世界、この食材、ここの産物でできるものがあった!!
「──そうだ、サルーンにしよう!!」




