第32話「商人の憂鬱」
「銀鉱山やてぇぇぇええ?!」
ビリビリビリっ。
ベッキーの声が大きく響く。
「しー! しー! 声がデカいよ!」
誰かに聞かれたらどーすんだよ!
「アホ! 誰も何も、客もおらんわ!」
「──なんだとぉ! 誰の店が閑古鳥鳴きまくりだー!」
「そこまでは言うとらんちゅうに。お前さんもだんだん、レベッカに似てきよったなー」
誰が似るか!
って、そうじゃなくて、
「とにかく黙れ! あまり大っぴらにしたくはないんだよ」
「そらそうやろな──……ウチも大声で言うようなことちゃうな」
おや?
ベッキーにしては殊勝だな。
「あほ。ウチをなんや思うとんねん──商人やぞ。山師とちゃうわ」
「だけど、銀だぞ」
「銀やからや。……それに銀がでて温泉があるちゅうたな?」
え?
まぁ……。
「ほならおそらく金もでるな」
「え?!」
そ、そうなん?!……と思わずゴードンを振り返ると、重々しく頷いていた。
どうやらそういうのは常識らしい。
そして、なぜかメルシーちゃんが渋い顔をしていた。
(……んん?)
一瞬、その表情に気を取られかけたが、それよりも重要なことが今はある。
「……その話、本当かよ」
「多分やで──そんで、そういう話になったらウチの出る幕やないわ」
「え?」
面白くなさそうに言うベッキーに思わず拍子抜けする田中。
もっと食い気味に来るかと思ったら、どうやら込み入った事情があるようだ。
「なんだよ。もっと喜ぶかと思ったけど、急にどうした?」
「どうしたもこうしたも、そう大した事情でもないぞ。まぁ、簡単に言えば利益がデカすぎて個人では扱いきらんでな──おそらく国か領主が動く」
うげ!
ゴードンの面白くもなさそうな顔に、思わずカエルを潰したような声が出ちゃう田中。
「……ま、まじかよ」
「マジもマジ、大マジや。せやからウマ味はないねん──黙っとくほうがええやろな」
「だ、だな」
ホント、それは困る。
下手すりゃ追い出されるし、隠したら隠したらで面倒くさそう。
「ってことは、知らないふりするほうがいいか?」
「おそらくのー。試掘しとった奴もそう考えとったんじゃろ。幸いサハギンがいたおかげでよい隠れ蓑になっとる」
あぁ、確かに。
ゴードン曰く数十年は放置されていたわけだからな。今更、領主も国も気づくはずもないか。
「じゃあ温泉も細々としたほうがいいかな」
「じゃな~。……まぁ、温泉だけなら国も動かんじゃろ──それよりも、ここにいる者が口を滑らさんほうが心配じゃ」
とくに関西弁な。
「ドアホ! 商人は口堅いでぇ。むしろお前やろ」
「う。確かに……」
さっき失敗したのも田中だったしな。
そして、さっきから黙ってるメルシーちゃん。……メルシーちゃん?
「あ、わ、私そろそろ帰るね」
「え? おい──」
そういうなり、わき目もふらず帰っていくメルシー。
……大丈夫か、あれ。
「ふむ」
「ふむー」
ん?
なにやらわかっている様子のゴードンとベッキー。
そして、
「あれは知っとったな」
「せやな。知ってて黙っとった顔やで」
え?
金がでることを?
マジ…………??
なにやら面倒ごとの予感がするのであった──。




