第31話「銀の行方」
「温泉やて?」
「あぁ、知ってるのか」
コクコク。
「そらぁ知っとるで──ウチは大好きやでぇ~」
そういってしなを作るが色気が皆無の関西弁エルフ。
「……なんちゅう顔しとんねん」
「いや、微塵も興味ねぇなーって」
「んがぁぁあ! 誰が鉄壁じゃぁぁあ!」
「そこまでえは言うとらんて──しかし、エルフのお主が温泉好きとはのぉ」
さすが変わり者じゃと、続けるゴードンにジト目を返すベッキー。
「はんっ、儲け話に繋がるからに決まっとるやろ。……温泉あるところに金の話ありやでぇ」
どきっ!
そのセリフに胸をはねさせる3人。
ちなみに、メルシーちゃんも、ベッキーに銀のことは内緒にしたほうがいいで話はまとまっている。だって、絶対騒ぎになるもん。
「ふん。その顔はなんや隠しとるなぁ」
「ナンモカクシテマセンヨ──……あ、それよりあれくれよあれ!」
「あん? あからさまに話そらしよって……。アレってなんやねん」
あれ言うたらアレよ。
「氷だよ氷!」
「氷ぃ? そないなもんまだあるんちゃうんか?」
「いや、在庫は一応まだあるけど、結構売れゆきがいいんだよ」
これは本当。
通りかかる旅人にも好評だし、
たまーに来る村人も楽しみにしているのだ。
しかも、元手はベッキーちゃんから格安で買っているだけなので、儲かってしょうがない。
「せやかて、そない量あってもしゃーないちゃうんけ?」
「それがそうでもないんだな」
ぐっふっふ。
誤魔化せるし、自慢もできるし、ゴードンを胸を張っている。
「なんや、二人してけったくそ悪い顔しよって────……で、その樽がどないしてん」
ふふん。
ただの樽と思うなよ!
みよ!
この魔法の樽をぉぉお!
がぱっ!
「んな!」
開けた瞬間、残った氷由来の空気がひやりと流れる。
きっとそれに度肝を抜かれたに違いないベッキーを見やると────……あれ?
「ぎ、銀やん!!」
「……あ、そっち!?」
えらく驚いた顔かと思ったら目を$マークにしてるから、なんやと思ったわ!
「お、おうおう! ど、どないしてん、この銀」
あ、やべ。
これ墓穴掘ったかも──……。
──っていうか、食いつき凄いな、おい。
圧、圧!
圧がすげぇ!
「ええから答えぃ!」
「え~っと……」
チラリ。
助けを求めるように二人に視線を送るが、
ゴードンもあちゃ~って顔してるし、メルシーちゃんは知~らないって顔してる。
あかん。
これは完全にやらかしたかも──。
「いや、まぁうん……」
「はっきりせぇや!」
あーもう!
「それよりもほら、まずは、手ぇいれてみ」
「ん? くれんのか?」
やるか馬鹿。
いいから! 入れろって!
「む……? なんや冷えとるな。それに樽に放置してたのに、なんでまだ氷があんねん?」
お、食いついた?
これ幸いと胸をそらす田中。
「ふ、ふふーん! どうだぁ、これが俺の魔法だ!」
なんせ魔法瓶……もとい魔法樽だからな!
「な、なんやて! 魔法?! お、おまはん魔法使えたんか?!」
「いや、そういうわけじゃないけど────あ、俺って素質ある?」
「いんや? 一ミリもないでぇ──そやのに、この氷どないしてん?」
うぐ……!
やっぱ、一ミリも素質ないのか──ちょっと、ショックぅ。
「……だから言っただろ、魔法だよ魔法。──ってのは、まぁジョークで、ありていに言えば科学だな」
熱反射と伝導率の問題でーす。
「科学ぅ?……あー、遠方ではやっとる学問やな」
「あ、科学の概念あるんだ」
異世界言語理解でそのへんは正確に翻訳されているだろうし、間違いなさそう。
「ウチは詳しいないけどな。しかし、驚いたな。銀に、こないな効果があるなんてな──」
「いや、銀に効果があるわけじゃないぞ? 正確にはこの構造だな」
そして、あーでもないこーでもないと、魔法瓶の構造を語って聞かせる。
ベッキーとの取引はこうした道の技術を教えることでもあるのだ。
さらに言えば、あわよくばこの説明で銀の出どころについては忘れてくれると助かる。
「──な~るほどのぉ。複雑やけど、ようするに、井戸水とか地下に保管するのを再現しているっちゅうことか」
「ま、まぁ、その理解で間違いない」
若干違うけど、
温度を一定に保つというところでは似たようなもんだ。
「ほーかほーか。ウチもいつか再現してみよか。……で、」
ん?
──で? って?
「この銀、どこで調達してん……」
「おっふ」
やっぱ、誤魔化しきれませんでしたー。




