第3話「酒のみと遭遇」
「ごっごっご……」
「んっんっん……」
ガンッ!
「「ぶはぁぁぁああ!」」
うまい!!
「いやー、酒はうまい!」
「くぅー、水さいこー!」
…………ん?
「お主、誰じゃ?」
「アンタこそ誰だよ?」
なんとなく互いに飲み物を交換したが、
そこには見知らぬ小汚いオッサンが一人──。
「見ない顔じゃな。こんな汚いガキは初めてじゃ」
「アンタに汚い言われたないわ!」
どこの蛮族だよ。
なんかデッカイ斧とかもってるし。……殺人鬼?
「あ! なら、ちょうどいい。末期の水も飲んだことだし、首をスパーンといってくれ!」
その斧でこう──スパーンと!
「……何言っとんじゃ。こわっ! だいたい、な~んで初対面のただの人間を殺さにゃならん」
なぬぅ。
「そんな、パクパク人間食いそうな顔してよく言うぜ──髭とかすげーぞアンタ」
「だれが食うか! あと、髭は関係ないわい!……ったく、人族の子供はこれだからのー」
ああん!
「──誰が子供だよ! こちとら、酒で身持ち崩した30代だっつーの!」
自慢じゃないけどな!
「かっ! たかが30代~? ガキが何を偉そうにー……って、人族の30代いうたら大人じゃったか?」
「大人も大人。ズル剥けだっつーの」
見るか?
「見るか馬鹿垂れ!……しかし、そうか──どーりで、朽ちておるわけじゃ」
「は? 誰が朽ちてるって? 肝臓なら朽ち果ててるけどさ」
失礼しちゃうわね!
「あほ! ここじゃここ! ここはちょっと前まで、人族がうまい酒を出しとってな──久しぶりに来たんじゃが、このありさまで、危うく禁断症状がでるとこだったんじゃ!」
いや、出てた出てた。
すっごい禁断症状出てたぞ?
さ、さけ……とか言って倒れてたからな、アンタ。
「しかし、まぁ、よかった。どうやら、再建するようじゃの」
「は? 再建……? なにを?」
肝臓か?
「そりゃ、酒倉よ──あの美味い酒をまた造るんじゃろ?」
「つくらねーよ。何が悲しくて酒つくるかね。……こちとらミジンコ希望だっつーの。あと、ちょっと前っていつだよ、ここ絶賛廃屋だったぞ?」
むしろ、廃屋を超えて遺跡だよ。
それも自然に還る一歩手前だったし。
「むぅ? そういえば、ボロボロじゃの」
「あんたねぼけてんのか? こりゃ、数年どころの話じゃないぞ?……少なく見積もって、50年以上たってんじゃね?」
知らんけど。
「む? 50年なんて──あぁ、そうか、人族ならそうか……」
なんだこいつ?
さっきから人族人族って……。
「アンタ何歳だよ?」
「ああん? ドワーフが一々歳を覚えとるわけなかろう!……だが、第4帝国が滅びた直度に生れたと言われたし、おそらく──3、400歳かの?」
「よ──」
……は?
「400歳? ドワーフ??」
何言ってんのコイツ?
ファンタジーかよ──……って、ファンタジーだったわ!!
「やっべ、すっかり忘れてた!」
「ああん?」
そうだ。ここファンタジーだわ……つーか転生した世界だったわ!
「くっそーあの転生神、どんな世界かくらい教えとけよ!」
ここ、
なーろっぱ世界かよ?!
「……どーりでステータスオープンとかアイテムBOXがあるわけだー」
そりゃそうだわな。
「んー? 何だか知らんが、元気が出たならよかった。……おぉ、そうじゃ、そんなことより、また近いうちに来るからの──それまでに再建を頼むぞい」
はぁ?
「いや、おい……! 再建って──」
チャリン♪
「ん? これは──」
「酒代じゃ」
へ?
……あぁ! さっきのウィスキー代か。
「いや、酒倉じゃないんだけど──……まぁいいか」
お金は大事だしね。
「ふむ? 変わったガキじゃのー。……まぁいい。ワシの名はゴードン。『火噴き山のゴードン』じゃ。しばらくは、仕事で3里先の村に逗留しとるからの、用があったら寄っとくれ。──鍛冶、建築、家具の作成などを請け負っとる」
「は、はぁ?」
3里先に村、か……。
もうちょっとだったんだな。
「ではの──お、そうじゃったそうじゃった」
「まだなんかあんのか?」
にっ!
「──さっきの酒を売っとくれ!」
※ ※ ※
ちゃり~ん♪
「ではまたのー」
手をふりふり、のっしのっしと去っていくゴードン。
どうやらあの先に村があるらしい。
去り際にいくつかの話をして、ちょっとした品を貰ったので、当面は何とかなりそうだ。
あと、お金も少々。
多少怪しまれはしたが、まぁ、何とかなったし──いっか。
「うん。悪くないスタートかな。水も少し貰ったし、飯もまぁ……」
なにより、お金と人里の位置が分かったのが大きい。
「え~っと、銅貨一枚でパン一個か」
教えてもらった物価と、
その代表たる貰ったばかりのパンをじっとみて、価値を頭に刻んでいく。
「あと、銅貨100枚で銀貨1枚──そんで、銀貨10枚で金貨1枚ね」
それ以上の通貨もあるが、
基本はこれをおぼえとけ……か。
「うーむ、今更だけど我ながら、すげー怪しいな」
さっき聞いた自分を思い出し、苦笑い。
いやさ、どこの世界に30代でお金を知らん奴がいるんだか。
「……まぁいいか。ゴードンの奴、大雑把そうだし」
実際、一瞬変な顔をしていたが、すぐに気を取り直して教えてくれた。
しかも、簡単な換金の基準も添えて。
「……にしても、安酒がこんなんに化けるとはな──」
貰った金貨を手で弄びつつ、同じ銘柄の酒を陽に透かす。
ちなみにゴードンが気に入ったのはウィスキーだった。
それも4Lのあれを丸々飲み干し、さらにお土産にもう一本持って行った。
他にも興味深そうに見ていたがとりあえずそれを2本ぶんということで、金貨を20枚置いていった。
1本あたり金貨10枚。
……かなりの大金だとおもう。まるでわらしべ長者の気分。
「え~っと、銅貨1枚がパン一個換算でいくと100円くらいかな」
それが1000倍の金貨が20枚。
つまり──……200万円?!
「うっそだろ……」
こんなん大量生産品で、せいぜい1本4000円のウィスキーだぞ!
「くそ、こんなことなら、もっと買っておけばよかったー」
そう思って、慌てて広げた酒を隠し始める。
しかしその途中で、口の空いた酒の匂いに頭がくらくらする。
「ぐぇ……。飲みたいと頭が思っているのに──身体が拒絶反応を示してやがる」
そんな奴に酒蔵を再建しろだ?
バカげている。
「いや。だけど、ゴードンの言っていたことはある意味天啓かもしれないな」
酒蔵……酒屋か。
酒……酒。
「……そうか。そうかも! もしかして、これはチャンスかもしれないぞ」
元の世界は酒で壊した身体と人生。
それを酒でやり直すのだ。いや、別に酒に溺れるつもりはもうない。
それどころか、酒を克服してもいいとさえ思う。……いつかミジンコになるために。
「うん。悪くないな──」
酒。
酒──……。
『酒をくれー』
「くくく……」
そういって倒れたゴードンの姿を思い出し、少し笑みがこぼれる。
あんな姿になりたくはないと。いや、昔の自分と重なり、もう、ああなりたくない──と。
「……こういうの、何て言うんだっけ?」
パチンコ中毒が、パチンコ屋で働きだしたらパチンコをやらなくなったとか。
ヤクの売人は、決してヤクに手を出さないとか──。
バーテンダーは、酒に溺れることはないとか……。
そういうのを確か──。
「状況的アイロニー……」
一種の修辞学用語のこと。
これらは事実に基づく現象であり、
もちろんすべて当てはまるわけではないし、カラクリもある。
先の例で言えば、
パチンコ中毒が、パチンコ屋で働くことで中毒は治るのは、パチンコ屋の裏事情を知るからともいわれるし、
ヤクの売人がヤクに手を出さないのは、単に末端の売人にそれを手を出すだけの余裕がないだけともいう。
バーテンダーに至ってはプロ意識から、店の酒にを出すはずがないとも……。
……だけど、
だとしてもこれは悪くない。
「酒に溺れた身体と心を直すため──…………いっそ、酒でも売るか」
うん。
悪くないかも。
二度目の人生、ミジンコが無理なら、これで立て直すのだ。
それにどのみち、肝臓も腎臓も限界だ。酒を見るたびに、脳が欲して体が拒絶するなんて地獄を味わうくらいなら、いっそ脳を矯正してやるのだ。
「よし決めた!」
幸いこの場所は、もと酒倉。
そして、ゴードンの話を聞くに、無人となってずいぶん経つのだろう。ならば、今ここで店をやっても問題ないはず。
「そうと決まれば早速準備だな!」
突然思い至った割に悪くない考えな気がして、ワクワクしてきた。
もともと、真面目に働いていたほうだ。色々あって、身体も心も壊れたけど、日本人なら働き、誰かに必要とされたいものだ!
「よーしやるぞー!」
当面の目的が定まった今、田中はここに店をつくることにしたのであった。




