第27話「洞窟探検」
「は?……ぎ、銀で?」
「そうじゃ、銀でじゃ──それも、少量と言わずに……そうさな、樽くらいの大きさにしておけばそれなりに保存もできよう」
いやいや、
待て待て。
「そんな銀、どこにあるんだよ? 俺でもわかるが、相当量の銀をつかうぞ?」
たしかに銀貨とかは出回る世界だけど、樽規模の銀って言うと相当だぞ?
しかも叩いて伸ばす銀貨と違って保存容器なのだから、耐久性を求めるとなると、見た目以上の地銀が必要になるだろう。
そんなのとてもとても──。
「ふん。大丈夫じゃ──あてならある」
「いや、俺にあてがねーよ。……そんな金ないぞ?」
総額で金貨10枚20枚の話ではないことは確か。
家中の酒を全部売れば賄えるかもしれないが、その時点で詰んでしまう。
「なに、お前さんに出せといっているわけじゃない──まぁ。ついてこい」
「へ?」
ついてこいったって……。
そういうなり、いつも持ち歩いていうハンマーを担ぐと、ロックのウィスキーをグイっと飲み干すゴードン。
ついでに氷も含んでゴリゴリやりだす。
うーむ。酒パワーのせいか、行動力あるなー。
「あ。一応言っとくが、俺に長旅は無理だぞ」
死んじゃう。
「馬鹿垂れ、村をほっといていくわけなかろう。なぁにすぐそこじゃよ──」
そこって……。
え? あそこ?!
ゴードンの向かったのは、なんとサルーンの裏にある洞窟であった。
むかしの酒蔵時代につかっていたというそれ──。
「うむ。むか~~~~~しに、一度だけは行ったが、その頃の記憶が正しければ、ほれ」
ぽぃっ。
入るなり、地面に落ちていた石を投げるゴードン。
そこには、キラリと輝く粒が含まれていた。それはまさか──。
「ぎ、銀、だと?」
「うむ。ボタ石じゃから、なんの価値もなかろうが、奥のほうに行けば生きとる鉱脈があるはずじゃ」
「い、いやちょっと待って!」
え?
え?
情報が多すぎてわからん。
「え? ここって、天然の洞窟じゃないのか?」
え?
しかも銀って……まさか。
「うむ。その通り──ここは鉱山……。いやぁ、鉱山になれなかった試掘鉱じゃの」
なんて、こった。
家の裏に鉱山がありました。
※ ※
かつーんこつーん!
じめじめとした洞窟をオッサン二人で行く。
足元は暗く、すでに入口からの光は途絶えていた。
「カンテラだけでこんな奥まで言って大丈夫か?」
「なに、慣れたもんじゃよ」
そりゃあアンタはな。
ドワーフだもん。
「それになんか湿度が高いし、何の匂いだこれ──」
生臭いような、
まとわりつくような──。
「おそらくモンスターの匂いじゃろ。この感じはゴブリンか、それ以外か──」
おえ。
やっぱりゴブリンいるのかー。
しかも、家の裏に。
「なに、ゴブリンくらいならなんとでもなる。それにほれ──」
ゴードンがハンマーで指し示す先には、ところどころに人工物のあとがあった。
「おそらくこの辺に酒を保管しとったのじゃろうの」
「あー、入口にもあったなこういうの」
洞窟の入り口にあった朽ちた棚と同じようなものがここにもあった。よく見れば壊れた樽や割れた瓶の破片なんかも落ちている。
「この湿度がちょうどよい酒もあるのじゃろうて。お主も使えばよかろう」
「モンスターに食われる未来しか見えねぇよ」
武器もないってのに、誰が入るかよ。
「っと、そろそろかのぉ?」
鼻を鳴らすゴードン。
どうやら先になにかあるようだ。
「ほれ、ここじゃ」
「うぉ! 広い……!」
そして、見上げた天井は恐ろしく綺麗だった。
「これが銀……?」
「おそらくのぉ。そして、ここまで掘って諦めたのがあれのせいじゃろう──」
そう言ってゴードンが示す先には、さきほどからキラキラとカンテラの光を反射するものがあった。
なるほど、これが話にあった地底湖か。
「でかいな……奥が見えない」
「うむ。崩落した天井をも飲み込んでなお深さをあるようじゃ」
実際ゴードンが近づいて掬ってみると、恐ろしいくらいの透明度で、湖の底や壁にも大量の鉱物が含まれているのかキラキラと輝いている。
「これはもとは川だったんじゃろうのー。大昔はこの上も荒野ではなく豊かな緑が広がっておったのかもしれんな」
「地殻変動とかそういうのか?」
どおりで井戸水が豊富なわけだ。
なんらかの異常で、地下水位が下がったのだろう。そのせいで地表にあった川も地面にモグリ、こうしてこのあたり一帯は荒野になったのかもしれない。
「うむ。それにこの匂い……モンスターだけではないな」
「へ? あ、確かにこの匂い……」
田中も知っている匂いだ。
草津……登別──鉄輪。
つまり温泉だ。
「異臭はモンスターだけじゃなく、これか」
「うむ。水中に泡があるところを見ると、このあたりに熱水鉱床があるな」
熱水鉱床。
およそ金や銀を産出する鉱脈に現れる鉱床だ。
造山運動やマグマの働きが関与しており、それらが温泉となって表れるという。
「家の裏に色々ありすぎだろう」
「カカカッ! たまたま見つけたにしてはお主は引きが強いのー」
嬉しくないよ。
そのおかげでモンスターが住み着いてんだろ?
「つーか、あれか……酒蔵があったのも、誰かが試掘してたのも、このことを知ってたんだろうな」
「おそらくな──……むっ?」
突然声を潜めたゴードン。
それに反応した田中であったが、その視線のさきに不自然な揺らぎを捕えた。
何かが地底湖に──。
「まずい! く、来るぞ!」
「え? え? え?」
く、来るって……!
「嘘だろ?! 水からくるのかよ!」
さっきまでキラキラして見えたのは、どうやら銀だけではなかったらしい。
それ以外に生物──いや、モンスターがそこに潜んでいたのだ!
「下がっておれ!」
ザバーン!
ゴードンがそういうなり、水面が割れて突如人型の生物が出現したのであった。




