第26話「氷問題」
「ほな。またなー」
そういってお手てぶんぶん、エルフのベッキーは機動馬車にのって帰っていった。一応村にも顔は出すらしい。
「おう、気を付けてな」
「ぼったくんじゃないぞ」
「あ。私ものせてー」
「おう、ええで────って、誰がボッタくりの守銭奴やー!」
いや、ゴードンもそこまで言ってないから。
まったく、ノリ突っ込みまで習得してるとは侮れないエルフだぜ。
こうして、女の子二人が去っていき、相変わらずのむさくるしいサルーンになったのだが、ここからは男のお楽しみの時間だ。
「なんか飲むか?」
「そうさの──レベッカが来た後じゃし、ロックでいこうかのー」
ロックか。
たしかにベッキーが来た後は、大量の氷を仕入れられるからしばらくはロックが出せる。
まぁ、冷凍庫分しか保管できないからすぐになくなっちゃうんだけどね──。
「よしきた。とりあえず、俺の異次元BOXに入り切らない分はさっさと消費しちまうか」
「うむうむ。ちょっともったいないが、ほっとけばタダの水になるしのー」
そうなんだよなー。
そこんとこをなんとかしたい。
……いっそ魔法を教えてもらうとか?
「んー? 無理じゃないかのー?」
「そうなのか?」
ゴードン曰く、魔法には素質が関係しているらしい。
エルフはそのほとんどがその素質に恵まれているが、人族で魔法の素質があるものは希少なのだとか。
「まぁ、ドワーフほどではないがの──がっはっは」
「いや、笑う意味が分からんが……そうか、素質かー」
それは努力ではなんともならない。
まぁあるかどうかだけでも、今度ベッキーが来た時にでも聞いてみよう。
「……なら、別の方法をかんがえないとな────ほい、ウィスキーのロック」
カラン♪
「おう、ありがとよ──……で、別の方法とは?」
一息でウィスキーグラスをあけるゴードンにお代わりを注ぎつつ、盥に積まれた余りの氷を見つめる田中。
「うん。……ウチの故郷は色々文明が発展しててな。氷を作る機械なんかもあったんだよ」
「ほうほう」
まぁ、電力がないからこの世界では作るほうは無理だろう。
だけどあれならいけそうなんだよなー。
「他にも、氷や湯──つまり、温度を一定かつ長持ちさせる方法もあったわけだ」
「ふむ?……魔法か」
魔法?
「……あぁ、ある意味そうだ。──魔法瓶っていうんだが、うまくすればまる一日くらいなら氷を保存できるぞ」
大型で量があればもっとできる。
……もちろん、いずれ溶けるけどね。
「ほっほーう、それは興味深いのぉ!」
「だろ? なので、ここはゴードンさんの腕を借りようかなーってな」
「ワシの? さっきも言ったがドワーフは魔法はからっきしじゃぞ」
「ははっ、人族もそうなんだろ? そうじゃなくて、魔法瓶ってのは、名前がそうなだけで別に魔法じゃない」
あえていうなら、科学だな。
熱反射を利用した立派な物理現象だ。
「ほほう。魔法でない魔法か、面白い──乗ったぞ」
「そうでなくちゃ」
ゴッ。
カウンターごしに二人は拳をぶつけた。
そうして、でるのはやっぱり万能レシピだ。
ちょっと注文をつければ設計図もでるのだから、ほんと優れもののスキルである。
ジキジキジキジキッ!
ビッ!
「こんなもんかな?」
「どれどれ」
レシピにかかれているのは──。
内側容器:鉄、または銅
外側容器:木またはセラミック(薄いレンガ)
断熱層:羊毛または藁クズ
真空が望ましいが、ない場合の代替手段
蓋:同構造の蓋が望ましいが、
コルクなどで代用可能
「う。中世レベルに置き換えたレシピなんだけど、結構なもんだな……」
「ほう、これが設計図か……むぅ。難しいな」
一緒にでき来た設計図は、中世レベルのそれと現代日本のそれが二種類あった。
もちろん、現代版を作るのは無理だろう。二重ガラス構造とか、真空とか、銀メッキとか書いてるもん……。
「うむ。しかし、こっちの簡易版ならできなくはないが、効果は半分以下とあるな」
「みたいだな。……特に重要なのは密閉と真空構造なんだよなー」
あとは銀メッキか。
これがないから、銅板かなにかで内部構造を作って鏡面のように磨くわけか。うむむ……。
「ふーむ。この真空とやらは無理じゃな。似たような状態は作れるが、絶対に空気は入るぞい? それくらいなら、銀メッキを再現したほうがよさそうじゃ」
「え? できるのか? 銀箔張るだけじゃだめだぞ?」
あくまでも銀メッキコーティングのことで、爪で剥がれる程度の銀箔の塗布では氷を入れるたびに剥がれてしまうだろう。
「なぁに、簡単じゃ──銅や鉄を使うのも、そもそも反射以上に熱伝導を考えてのことじゃろ?」
「お、おう。多分な……」
さすがはドワーフ。
設計図と材料を見ただけで仕組みを理解してしまったようだ。
「なら簡単じゃ──銀メッキだのこーてぃんぐだのと言わずに……」
銀で作ればよかろう。




