第25話「流しそうめん」
「「「これ?」」」
顔を合わせる三人に、田中は手にしたそれを示した。
「え~っとぉ、」
「井戸水と」「竹かいな?」
そう。
その通り!
「ん~? それ、食えんぞ? もっと若いウチは食えるけどなぁ」
どうやらベッキーがタケノコのことを知っているらしい。
だが、もちろんタケノコを食べるわけでも竹を食べるわけでもない。
「はは、そうじゃなくて、これはこうして、こう──」
そうして半分に割った竹をいくつか組み合わせると樋を作って見せる。
「んー? 水路か?」
「竹にしかみえんなぁ?」
「井戸水でもひくの?」
うん。
まぁ最終的には、井戸水を近くまでひくんだけど、そのまえにちょっとした遊びだ。
「じゃん!」
そういって取り出したのは村で買ったザルにもった白い塊──。
「なんや? パスタか?」
「いやー。あれは植物じゃな」
「えー。白髪じゃない?」
ズルッ。
「ちげーわ!」
あえて言うならパスタのほうが近いわ!
つーか、白髪ってメルシーちゃんアンタ……。
「これは麺! ソーメン……と、いいたいけど、冷や麦以上──、ま、細ウドンってとこかな?」
「ソーメン?」「冷や麦ぃ?」
「「「細ウドンー?」」」
……うむ。反応よくて結構だね。
本当は素麺を作りたかったのだが、ベッキーが売っていた小麦粉も、村で売っていた粉も、ちょ~~~っとばかり質がよくなくて、うまくまとまらなかったのだ。
現代日本のそれが優秀すぎるというのもあるのだろうが、
そもそも麦の種類からしてちがうのだろう。予想と違って粒が荒すぎた。
それでもなんとか形にはしたのだが──結果できたのは冷や麦よりも太い、細いウドンになってしまったというわけ。
まぁ、なんちゃって素麺だな。
それでも、ここで素麺とくればもうわかるだろう──?
「これをこうして……」
「こうして?」
「ほう?」
「へー?」
流す!
「「「…………」」」
ザァァァー……。
反応、うすっ!!
「……いや、なんか言えよ!」
流しただけで、シーンとすんなや!
「い、いやー。そういわれてもなー」
「う、うむ」
「な、何がしたいの?」
え?
そ、そういわれると……。
「な、なにがしたいんだろ?」
麺を流して、
俺はいったい何を────……はっ、いかんいかん!!
深みにはまるとこだった!
「いいから! これをこうやって、」
取り出した箸で、自分で流した麺を追いかけて、
「ほい!」
ズルルルル!
うん!
うまい!!
「は、はぁ?」
「ほ、ほぅ?」
「へ、へぇ?」
……うん!
わかってるよ!
説明するよ!!
「あーもう! 俺の故郷でこういうイベントがあったの!」
素麺を流して、下流で食うっていうイベントが!!
「それに何の意味があんねん?」
「味が変わるとかのー?」
「つーか汚くない?」
汚くない!
みてみぃ、下流にはちゃんと盥とザルをセットしてるだろ!
そりゃ、箸はこう……口につけるけどさ。
「いいから、やれって!」
ほら!
パンッ! と箸を3人に押し付ける。
そして、いかにも渋々といった感じで、下流に行く3人に、田中は手押しポンプを操作すると、ザァァァアと勢いよく水を流し、その流れに素麺──もとい細ウドンを流した。
「あ、あ、あ──ほら! 早く捕まえろ!」
「え? え?」
「こ、こうか?」
「なに、この棒?」
ベッキーは様子見。
ゴードンは慌てて掴むも、一本だけ。そして、メルシーは箸を知らない……。
「もー!! 掬えよ!」
もう一回な!
「お、おう! わかったわかった、そういうことか!」
「あ、あぁ、なるほどな──」
「だから、なにこの棒」
棒、棒、うるさいな!
箸だよ、箸!
「メルシーはしばらくみとけ! あとでフォーク貸すから」
「ぶー」
ふくれるメルシーを無視して、下流の二人に向かって流す。
「いくぞー!」
「おー!」
「こ、こい!」
ザァァァアア!!
「とりゃぁぁあ!」
「あぁぁ、取りすぎだぞ、レベッカ!!」
「わははは! 早いもん勝ちやでぇ──……で、これどうすんねん」
「そういえばワシもこれどうしたらいいのじゃ?」
二人は麺を手に立ち尽くす。
「つーか、下流は不利じゃない?」
そして、メルシーは黙っとけ。
「あ、そうだった。ほい、容器──」
もちろん、ちゃんと出汁も用意している。
もっとも醤油も麺つゆもないので、なんちゃって出汁だけどね。
「──で、掬ったこれを、こう」
ずるるるる!
試しに食べて見せると、恐る恐る口にする二人。
ズルッ!
チュルッ!
「む!」
「お!」
「え? え?」
う、
「「うまぁ!」」
「えー! ずるい!」
はっはっは!
うまかろう、うまかろう!
「うん、うん! これサッパリするなー」
「麺料理は久しぶりじゃが──……なるほど、水の流れで涼感を得るという趣旨か」
あ、それ!
ゴードンのそれ、多分正解!
「へー。なるほどね。……ちょっとそのスープ頂戴」
「いいけど、そのまま飲むもんじゃねーぞ」
ずず……。
「あ、おいしい。ちょっとしょっぱいけど、なんかお酒の味がする?」
「お。正解」
さすが宿の料理担当。
「ちょっとメモするね」
「うん……」
いいけど。
「これが流しそうめんの麺つゆだ」
「麺つゆ麺つゆ。メモメモ」
まぁ、ほんとなんちゃって出汁なんだけどね。
「あー……これ、あれか。ウチの持ってきたプラムのー」
「そう。ベッキーが持ってきたプラムの塩漬け……の出来損ないだな」
「出来損ない言うなや……」
果物の長期保存のため、いくつか準備されたそれ。
中には砂糖漬けと塩漬け、そしてドライフルーツと、ベッキーはたくさんの種類の保存食を仕入れてきたわけだが、その中にプラムの塩漬けがあったのだ。
ただし、残念なことに一部のブラムは質が悪かったのか、あるいは保存状態が悪かったのか、甕に入っていたもののいくつかが腐りかけていた。
「──で、その腐りかけのプラムの塩漬けなんだけど、俺の故郷の漬け物に似ててな。試しにいくつか使ってみたわけだ」
さらにはその中でも、底のほうに溜まっていたプラムの塩漬けを使った。
底のほうはさすがに腐ってはいなかったが、かわりに塩の結晶まみれになっていたので、取り出してみたところ、かすかの梅干しに似た味がしたのだ。
それを無料同然の値段で買い上げたという寸法だ。
「うむ。じゃが、それだけじゃなかろう……酒を煮詰めたか?」
「正解。こればっかりはウチの日本酒をつかわせてもらった、そこに、ベッキーの持ってきたキノコの乾物から取った出汁と合わせて、なんちゃって麺つゆにしたってわけさ」
つまり、
「炒り酒」だ。
……これは醤油が普及するより前の日本の伝統的な調味料である。
今ではほとんど見かけなくなったが、昔は一般的であったというそれ。
「ま、本来は梅干しと鰹節なんだけどね。だけど、ないから代用品としてプラムの古塩漬けと、キノコの乾物を使わせてもらった」
おかげでなんとか出汁っぽくなった。
味も結構いい。
「へー。メモメモ。……あ、じゃあこれは?」
「ん? あー」
ザルの中のウドンのことか?
「これは簡単。小麦粉に水を加えて練ったあと、少し寝かせて、細切りにして乾燥させただけ。細さによって素麺、冷や麦って、名称にわかれるが……まぁ今回のこの太さだと、ウドンになるな」
こればっかりは要練習だ。
まぁあとは欲を言えば、もっと乾燥させたほうがいいのだろう。
「ほー! 意外と手間をかけておるのー」
「箸使うのも久しぶりやでー」
二人はさすがに長寿種族だけあって色々経験豊富らしい。
一方で途中から参加したメルシーはフォークで掴んでいるが、あれはあれでありか?
なんかパスタみたいにして食べているがそれなりに楽しんでいる。
「へー。よくわからなかったけど、結構面白いね」
「うむ。じゃが、スープはワシはもっとコッテリしていてもええのー」
「ウチはこれ好きー」
チュルルルルルル。
そうして、わいのわいのと騒ぎながらも、用意したウドン……素麺がなくなるまで流しそうめんを続けるのであった。
「「「うまーい!」」」




