第24話「ホットバタードウィスキー」
「さて、試験は概ねうまくいったが──問題は管をいれてくみ上げできるかどうかじゃ」
ゴードンの前には、タライにおいた手押しポンプがあり、そこからはじゃぶじゃぶと水が出ている。
「おー! すごいわね、これ」
「ほんまや。どういう仕組みや?」
興味津々の少女ズ。
しかし、田中とゴードンはこのあたりはすでに確認済。
問題はこの先だ。
「一応、巻き鉄でのコーティング補強は終わった。接合部も、ほぞ接合の応用で行けそうじゃ」
そう。
問題だった接合部は、膠だけではうまくいかなかったのだが、
田中が提供した万能レシピ作『日本の伝統工芸』である、「仕口」や「継手」の技法を応用することでうまくいったのだ。あとは接合部を膠で固めれば完璧というわけ。
「ってことはあとは実試験だけか?」
「うむ。そのために中に入るが──おい、レベッカ」
「……なんや?」
鉄で補強された竹を担いだゴードンが、顎でレベッカを呼ぶ。
「すまんが、中に入るときに、お前の機動馬車で牽引してくれ。さすがに、物を持っておりながらの作業は骨が折れる」
「リフトせいっちゅうことか? かまへんが、あんまし得意ちゃうぞ」
「構わん。細かいところはこっちでなんとかする」
そういうなり、ロープを体に巻き付けて井戸に降りていくゴードン。
それをはらはら見守るメルシーに、馬車に駆け戻り牽引準備に取り掛かるベッキー。
うーむ。俺はどうすれば……。
『お主はお主のやることをやれ』
「……やっぱそうだよな」
ボケッと見ていることが仕事じゃない。
できることは他にもあるはずだ。そう、何かできること──。
ふと。
あまりの資材が目に留まった。
「竹、か」
作業場に散らばるそれを拾い上げた田中は、ふと郷愁に誘われた。
懐かしい香り、懐かしい光景、懐かしい景色──。日本人の心に強烈に刺さるものが竹にはあった。
それは夏の香りだ。
うだるような熱気がどこか日本のそれを彷彿させたのだろう。
「……暑い、暑い日に竹──」
そうして竹を手にして時、
ギラリと照り付ける荒野の太陽を見上げると、そのままフラフラとサルーンに戻っていく。
そうだ。
これならきっとあれがいい──。
……カランッ。
竹を厨房に転がすと、おもむろに半分に切ってみる。
中は白く、よい香りがした。
うん……。
「いい竹だ」
そのままノミを手にして節をぬくと、簡単にそれができた。
「ゴードンもレベッカも協力してくれたんだ。俺もなんかしなきゃな」
それも、まだ出会って数日の怪しい男にこんな……。
ほんと気のいい奴等だぜ。
「なら、俺は俺のやり方で感謝させてもらうさ!」
材料はある。
水もある。
なら、あとはやるだけ!
「よっし! 万能レシピ発動!」
ジキジキジキッ
そう宣言するなり、さっそくスキルを起動するのであった。
それから二時間後……。
「(レベッカのー! ひきあげろー!)」
「あ、ベッキーさん! ゴードンが引けって言ってます!」
井戸の奥から響く声を、メルシーが中継する。
すると、機動馬車の御者席にいたベッキーが片手で答える。
「おーらい! ゆっくりいくでぇ!」
「はーい! おねがいしまーす!……ゴードンうごくわよー」
おーぅ! と低く響く声が井戸から聞こえる。
なにせ2、30メートルは下から響く声だ。さすがのゴードンの声も小さく聞こえるってなもんだ。
「はいよー! しるばー!……ゆっくりいくんやでぇ!」
そういうなりとろとろ動く機動馬車。
まったく重量物を引き上げる重さを感じさせず、ギシギシとロープがしなり、ほどなくしてゴードンの姿が現れた。
「ふひー! さすがにくたびれたわい」
全身ずぶぬれ。
そして、さすがに冷え切ったのか、ガタガタ震えていた。
「おう、ありがとよ」
ぽいっ。
「お、気が利くねェ」
そこに、いつのまにいたのか、田中が酒瓶片手にそこにいた。
「ほれ、グイっと行きな」
「お、キツそうな匂いがするのー…………ぐかっ!」
ボッ!
一瞬にして、顔を真っ赤にしたゴードンが火を噴く。
「むはー! きっくー!」
「ははっ、寒かろうと思って作っといた」
「なんだ、てっきり寝てるのかと思ったわよー」
作業中姿を見せなかったタナカを微妙にディスるメルシー。
まぁ言いたいことは分かるが、田中があそこに残ってもできることなどないのだ。見た目的には、近くで見守るほうがいいのだろうが、それでは実利にならない。
だから、ゴードンは先んじて言ったのだ。やることをやれ──と。
ま、この辺は男にしかわからない世界だな。
「ほっほ~う、うまそうなもんのんどるやんけ!」
「やめとけ、やめとけ。こりゃ寒い時に飲むもんだ」
……そして、メモの準備するな、そこのメルシーさん。
「いいじゃん、教えてよ」
「はいはい。じゃ、全員ちょっとだけな──」
トトトト……。
「わ、あったかい」
「ほんまや。ちょっとあついくらいやな──それにええ香りがするでぇ」
「ワシもお代わり」
はいはい。
「そんじゃ、作業終わりに祝して──乾杯!」
かんぱーい!
もちろん、田中さんは飲みませんよ?
なので、全員のグラスと、自分は注いだ瓶をカツンと充てる。
「くはー! うまっ、アマっ!」
「きついわねー!」
「おー! 身体がカッカッ! してきよったわい!」
わっはっはっはっは!
「おう、ゴードンお疲れ」
「なぁに、お安い御用じゃ──それに、労働上がりに酒は格別じゃて」
そういって豪快に笑う。
……まったく頭が下がるぜ。
「それにしてもおいしいし、飲みやすいわね」
「ホンマにのー。きついけど、寒い日に飲んだらついついのみすぎてしまいそうやで」
すでに暑い日差しの中で飲んだので、女子二人は額から汗を流している。
ゴードンも体の震えが止まり顔が真っ赤っか。
「うむ。蜂蜜の味がするのー」
「これにこれ……バターかしら?」
「それに、ウチが売った香辛料の香りやの」
おぉ、全員ご名答。
「こいつはバーボンっていうウィスキーを使ったカクテルの一種で、『ホットバタードウィスキー』ってんだ」
「「「ホットバタードウィスキー?!」」」
……いや、これそんなハモるほどか?
ええけど。
「作り方は簡単──……メモせんでええぞ?」
どうせ、ウィスキーないと作れんやん。
「もう意地みたいなもんよ!」
「はいはい──で、バーボンを使うんだが、まずは鍋にバターと蜂蜜を入れて熱して溶かした後、ウィスキーを加える」
この際大事なのは、ウィスキーを入れる順番。
そして、入れた後も熱し過ぎないこと。……アルコールが飛んじゃうからね。
「で、ある程度混ざったら、熱湯をいれて5分ほどなじませる」
「おぉ、なるほど──お湯割りか」
「あー。それで飲みやすいけどキツイのね」
そうそう。
日本酒の燗みたいなもんだ。
「──で、最後にベッキーの香辛料をいれる」
「ウチの香辛料いうなや。……シナモンやろ、それ」
あーそうそれ。
「なるほどのー。エルフの香辛料か、どうりでよい香りがするわけだ」
「へー。また、ベッキーさんが儲けちゃうねー」
うははははは!
「安ぅしといたるでー」
「実際、値段はそこまでだな」
おそらくエルフの間ではそれなりに知れた香辛料なのだろう。
人間社会では高値で取引されそうだけど。
「うむうむ。いい酒じゃった──では、そろそろ」
お、そうだった、そうだった。
「膠は乾いたか?」
「おそらく、そろそろええじゃろ。なにせ、井戸の中は冷え切っとるからのー」
そりゃ、年中気温は同じだしね。
なら、そろそろやるか──。
「うむ、試そうか」
──ゴクリ。
ゴードンが宣言するや否や、全員が見守るなか、井戸脇に設置された手押しポンプの周りに集まる。
そして、
「いくぞい」
「おうよ!」
まるで始球式のようにドキドキした空気が流れる。
そして、無造作にゴードンがギッコンバッコンと手押しポンプを押すと最初は無反応だったそれも、次第にゴボゴボと音を立て始め──ついに!!
ジャバァァア!!
「おぉ!」
「うむー! うまくいったわい!」
がっはっはっはっは!
「おぉぉー! すごいやん。これ片手でできるんか?!」
「すごいねー。村にも欲しいかも」
いいぞいいぞ。全然真似しろ。別に秘匿する気はないしね。
ベッキーもメルシーも大絶賛だし、これは大成功だな。
しかし、綺麗な水だ。
さすが地下深い井戸水なだけある。……ま、いつも汲んでいる水と同じなんだけどね。
「つめたい!」
「こらぁうまいのー!」
そしてさっそくパシャパシャと水で遊ぶメルシーとベッキー。
& ゴードン!
「ぐははは! これで酒を割りたいのー」
んむ。
それはいい考えだ。
だけど、その前に────。
「……せっかくだし、これで飯にしようぜ」




