第22話「導水工事」
「ほな、すぐ戻るわー」
「頼むな──これ手付金」
金貨を5枚渡しておく。
以前の支払いと合わせてこれくらいでいいらしい。
「ん、たしかに。ほななー」
そういうなり、今回の商品を置くだけ置くと、竹を仕入れに近くの森(?)に向かうベッキー。
しかし、こんな荒野に森ねー。
「エルフだけしか入れんぞ」
「あ、やっぱりそういう感じ?」
どうやら、魔法に長けたエルフが秘匿する森があちこちにあるらしい。
そうでなければこの辺に水源ができるはずもない。
「ま、あんまり奴の仕入れの謎には首をつっこまんことだな。エルフの沸点はよくわからんからのー」
「心得とく」
まぁぶっちゃけ仕入れさえしてくれたら、どうでもいい。
田中は勇者でも冒険者でもないし、エルフの森にいくことなど今後もない。
(注:フラグ)
「さて、それじゃ、こっちはこっちで試作するかのー」
「おぉ、頼んでいいか?」
「もちろんじゃて、毎日状況報告に伺うから楽しみにしとれ」
酒飲みにくるだけだろ。
と思いつつ、
「助かる」
「おうよ」
そう言うなり、ゴードンは余りのウイスキーのカクテルを手にノッシノッシと村に帰っていった。
ちなみに報酬については今回の情報一式ということらしい。(手押しポンプのことな)
ゴードン曰くそれだけでも釣りがくるとのこと。
つまり、あのウィスキーは田中なりの感謝のしるしだ。
「じゃー私も戻るねー」
「おう。……そんで、ちゃっかりベッキーから唐辛子買ってるのな」
「そりゃそうよ。これがないと作れないじゃん、スパイシーなんとかと、タランチュラ」
スパイシー・ハードタック・フライとタランチュラパンチな。
タランチュラそのものじゃないからな。
「つーか、パクる気をもう隠しもしねーな」
まぁいいけど。
どうせ無数にレシピはあるわけだし、村が流行ればこっちも繁盛するってもんだ。
「そうそう。もちつもたれつ」
「俺ばっか持ってる気がするが……。その分宣伝たのむぞ」
「まっかせなさ~い!」
ベッキーより豊満な小ぶりの胸を叩いたメル──あ、いた!
「おっぱい凝視しないの!」
「いってーな。そんなに見てないだろ」
ちょっと、チラッと、少し見ただけやん。
「もー。……とにかく、また来るからねー」
はいはい。
「さて、うるさいのが全員帰ったところで、料理の練習すっか」
コキコキっ。
首を鳴らしつつ、気合を入れる。
レシピで作ったものは、今度はソラで作れるくらいにはなりたいので、田中はなんだかんだで練習は欠かしていない。
こうして、サルーンで生きていくと決めた以上、絶対避けては通れない道だった。
そうして、4日後────。
「へー、これが手押しポンプか」
「なんじゃ、見たことないのか?」
うん。
……郷土の資料館とか映像ではあるけど、動く実物は初めて。
「まぁ、試作じゃからどこまで上手くいくかわからんが──村で試した限りじゃ動くことは動いたぞ」
マジか。
それだけでも十分だ。
「しかし、型から作ったから骨が折れたわい。幸いにも部品がそれほどないのが救いじゃの──なにより、仕組み自体は単純なものじゃて」
そりゃそうだ。
機械とはいえ、所詮は人力で動く程度のものだ。
原理さえ知ってれば、中世程度の鍛冶レベルでも作れるだろう。
「問題はやはり管じゃのー。20メートル下に設置するとなると、どうしても強度が問題となる──」
それで竹なんだよな?
「左様。……しかし、竹では汲み上げの際に圧力がかかりすぎる──ゆえにこうした」
「こう……って、これ、竹か?」
そこにあったのはどう見ても鉄製の管だった。
「いや、鉄じゃん。どうやってこれだけの鉄を?」
「ふふん、そうみえるか?」
見える見える。
完全に鉄────あれ? 思ったより軽い。
「そうじゃろ? 中を見てみぃ」
手にした管は思った以上に軽く、片手で持ちあげられるほど。
鉄パイプだってこのサイズなら両手で抱えるほどだというのに────んん?
「あれ? この中身…………竹か!」
「ご名答じゃ!」
筒と筒先で、視線を合わせた二人。
その内部はなんと白く、木質のそれがうかがえた、すなわりこれは──。
「そうか。コーティング!」
「おぉ、さすがにわかるか。その通り──巻き鉄を使ってな、内側は竹にして、外側を鉄で覆ってみた」
なるほど。
これなら少ない鉄材で十分な強度が保てるぞ!
「さ~すが火吹き山のゴードン!」
「それやめい。……馬鹿にしとるだろ」
してないしてない。
「いや、マジで尊敬! 確かにこれならどっちも達成できそうだな」
竹の割れを防ぎつつ、
鉄の強度を誇る。そして、副次的とはいえ、金属の腐食による味の変化も防げそうだ。
「これいいな。さっそくためしてみようぜ!」
「まぁ、まて──これでは長さが足りんじゃろ。じゃからそろそろ……」
田舎を回って、荒稼ぎ~♪
間抜けをだまして、ぼったくりー♪
「あ、来た」
「相変わらずひどい歌じゃのー」
でもジャストタイミング。
「にひひひ、みんなのアイドル、ベッキーちゃんですよぉ」
「アイドル? そんなのどこにもいねぇなー」
「がめつい商人ならおるがのー」
「んがぁぁあああ!! 誰がドケチ守銭奴かー!」
いや、そこまで言ってねーよ。
「それより、あったか?」
「……流すなや! まぁ、あったあった。良質なのがな──ほれ」
ガランガラガラガララー。
「お、おぉー。必要分だけでよかったんだけどね」
「アホっ。管にすんなら細かいサイズがいるやろ、適当に揃えたってんありがたく思い!」
なるほど。
ベッキーなりの気づかいらしい。
しかし、これならゴードンも満足だろう。実際、すでに素材の吟味に入っている。
「ふむ。いい竹じゃ──たしかにこれならなら行けそうじゃの」
「お、じゃあ、さっそくやるか」
いいね!
さっそく作業に取り掛かるゴードン。
まずは竹を選別して表面を削る作業から入るらしい。そして、形を整えたら巻き鉄をつけて補強する。
うーむ、言葉ではわかるけど、わからん。
「ま、まぁ、任せる」
「おう、任せろ──お主はお主のことをするがいい」
つまり、なんか飯つくれと。
「了解」
「あ、ウチも喉かわいたー」
あいあい。
その前に商品みせてちょ。
サルーンに戻りがてらいつもの品を補充して、食事とお酒の準備に取り掛かるのであった。




