第21話「竹万能説」
「ほんなもん竹つこうたらええやんけ」
ベッキーがあっさりそういった。
彼女の手には『タランチュラパンチ』ことカクテルウィスキーと、ハードタック・スパイシー・フライがあった。
「竹? 竹ってあの竹か?」
「あの竹がなんか知らんが、竹いうたらひとつしかないやろ?」
うーむ、竹か。
「ゴードンどうだ?」
「竹のー……たしかに、強度はあるが、しょせん木ぞ? 経年劣化で割れんか?」
そうだ。
竹は割れる。たしかに、日本の田舎のほうでは竹を使った用水路なんてのもあったと思うが、あれも一生使えるような代物ではなかったはず。
なにより、腐らないか?
「あほぅ、ものは大抵腐るわ! せやけど、竹の耐水性は抜群やぞ?」
「そりゃそうだろうけど──うーん。そもそも手に入るのか?」
この辺には竹どころか、木だってまばらだ。
「馬鹿たれ。ウチを誰やと思うとんねん」
「関西弁エルフ」
「がめつい女」
「ボッタくり商人」
「んがぁぁぁあ! なんやその評価はぁぁああ!」
いや、順当だろ?
一個も間違ってないし……。
「アホ! もっとあるやろが──こう、キュートとか、べっぴんとか、いい女とか」
「……
「…………
「………………
「黙んなやぁぁああ!」
いやだってなー。
まぁ、可愛い(?)とは思うけど、ちょっと埃っぽいし、なにより胸がな。
「どこ見て言うとんねん」
「どこも見てねーよ。見るほどねーだろうが」
ゴンッ!
ゴンッ!
「女の敵か、お前は!」
「今のは最低ー」
いってー……。なんか二発殴られたけど、なんでぇ?
「なんでかわからんうちはお前さんも大概よのー。それより、竹の話じゃ」
「お、おーそうやったそうやった。竹欲しいなら、いくらでも手に入れたるであんなもん」
あんなもんって、どこに生えてんだよ。
「そらぁ、森よ。ウチをなんやと思うとんねん……エルフやぞ」
あ、
「あぁー。そうか、エルフだったな」
関西弁のイメージ強くて忘れてたわ。
「しばくぞ。……ったく、まぁええわ。それにちょうどいい感じに、4、5本ならあるでぇ」
「え? あるの?」
「あるわある。先日古いのと新しいの交換したばかりでの──これ、天幕張るの重宝すんねん」
そういって、馬車から取り出したのは真新しい竹であった。しかも結構いい竹。
「真竹か」
「ほっ。知っとるんか」
舐めんな。
こちとら日本人やぞ。
「まぁ知っとるなら話は早い──この近く……いうても普通に歩いたら数日かかるが、エルフの住んどる森があって、そこにあるでぇ」
「マジか……。なぁ、ゴードン、これどうだ?」
「ふむ……」とそう言って考え込むゴードン。
竹を手に取り矯めつ眇めつ──。
「いけそうじゃの。……じゃがやはり強度に問題ありじゃのー」
実際は試してみないとわからないとのことだが、使えなくはなさそうだ。
「長さも継ぎ足せばよかろう。接合部も細工次第じゃな」
「だけど、割れないか?」
そこが一番の問題だ。
手押しポンプは空気圧と水圧の両方がかかる。
しかも地下2、30メートルからくみ上げるとなるとそれなりだ。
「そこは工夫次第じゃ。な~に一計がある──おい、レベッカの」
「なんや」
ゴードンはベッキーではなくレベッカと呼ぶらしい。
それでも慣れた様子で、ベッキーが振り返る。
「こいつを仕入れてこい。お前の馬車なら2、3日じゃろ? それまでに作れるもんはこっちで作る」
「ほらぁ、ええけど──金はとるでぇ」
「うむ。払う払う。タナカがな」
俺かい!
……って、俺のためのインフラだったわ!
「もちろんだ。……あ! だけど、あんまし高くすんなよ? 竹の価値くらい知ってるからな」
「わぁ~っとる。輸送費と手間賃だけや。あと、宿泊費も上乗せすんでー」
はいはい。
「とりあえず、大至急頼む。それまでに、今日持ってきた分も買うし、いつもの品も買うぞ」
「あいあい。幸い今回は新商品はなしや。なんや儲け話の匂いがしたから、急いできてん!」
コイツさすがだな。
いつから引き返したが知らないけど、スルメが欲しいと言った割に、海産物を持ってこなかったころからして、早期にこっちに戻る決断をしたのだろう。
「ま、完成してら教えるよ──ゴードン、試作はどれくらいでできそうだ?」
「そうさな……。初めて作るし、機材もあまりないゆえ──3……、いや4日貰おうか」
4日で?!
「は、早いな……」
「アホゥ。図面があるんじゃ、ワシにできんわけなかろうが──」
あ、そういうもんやん?
……正直、この手の職人のさじ加減はよくわからない。
っていうか、
「な、なぁ、メルシー。……ゴードンってもしかして凄い人?」
ひそひそっ。
「ん? さぁ? 私も詳しくないけど、指名依頼でウチの村に来たくらいだし、名は通ってるみたいだよ」
マジか。
初めて会った時「火吹き山のゴードン」とか言ってたし、もしかして二つ名持ちの凄い人か?
「がははは、ゴードン。おまはんを知らん奴もおるみたいやでぇ」
「別に自慢しとらんからええわい。……あと、なんとかのゴードンみたいなのは、ドワーフ特有の名づけぞ? 同名が多いでな、そうやって分けとる」
なるほど。
どうやら、ドワーフには基本的に苗字持つ習慣はないらしい。
一部王族や一族の長にはいるらしいが、それでも基本的にはこうして「なんとかの~」と適当な二つ名をつけるらしい。
「まぁ、本人こういうとるけど、実際に『火吹き山』の火力を使って鍛冶をしとったゴッツい鍛冶職人やでぇ。──山での仕事に飽きた言うて、今では流ししとるけど……。うけけけ、腕は半端ないでぇ」
意地悪そうな笑みを浮かべるベッキー。
どうやら、かなりの腕前らしい……。




