第19話「手押しポンプ」
万能レシピ、発動!
ジキジキジキ……!
「むぅ? なんじゃそれは──」
「あぁ、万能レシピの使い方の一つだ」
コモンアイテムである『手押しポンプ』のレシピはお金で購入できた。
ただし、そのままだと原材料しかでてこないので使いようがないが、
ちょっと追加料金を払えば設計図が出てくることに最近気づいたのだ。
「ほらこれ──こういうの作れるか?」
材料の大半は、塩ビパイプや鉄などでそのままでは再現不可能だが、
それよりも設計図のほうが重要だ。
こんな複雑なものは田中には作成不可能なのは最初からわかりきっている。
なのでここは餅は餅屋で、全面的にゴードン頼りきることになるのだが、果たして……。
「……ほぅ。これは面白いな」
万能レシピからはじき出されてきた図面を興味深そうに眺めるゴードン。
どうやら、いつもの酒飲みの視線から職人のそれに戻っている。
「……で、できるか?」
「ふん。できるかではない──やるかどうかじゃ」
お!
なんか職人っぽい!
「鉄を使う技術ならワシにできんはずはなかろう──しかも設計図まであるんじゃしのー」
おぉー。さすがドワーフ。
「しかし、これは一体全体なんじゃ? 圧力を上からかけて空気を送り込む装置にようじゃが……」
「あぁ、半分正解だ」
これは手押しポンプ。
手動で圧力をかけ、空気と水を交換し、上に引き上げる装置だ。
通常の釣瓶落とし式の井戸にくらべて格段に労力が下がる一品で、女子供でも扱える優れもの。
「ほう! つまり……あぁ、ポンプとはそういうことか」
どうやら頭の中で構造を理解したらしいゴードン。
これは期待できそうだ。
「金は出す──どうだ? 作ってくれるか?」
「うむ、任せろ──と言いたいところじゃが、」
む?
「これは材料が足りるか?」
「へ?」
材料って…………あぁ!
ゴードンがトントンと叩いているのは、ポンプそのものではなく、パイプの部分であった──。
「これを最低20メートル……。井戸の深さを考えるなら、30メートルは欲しいところじゃの」
「うん。そうだな……。たしかに今の使用量を考えると、できれば井戸の底近くまでは伸ばしたいな」
井戸は一定水量を保つようになっているが、あくまで井戸の面積分の水しか貯められない。
使用量が増えれば次に水位回復するまで少し時間がかかるものなのだ。ならば、パイプが上澄み部分にしか届かないのであればその最大容量を使うのは厳しくなる。
理想はやはり底近くまで伸ばすことだろう。
「となると、ある程度の強度をもったパイプを伸ばすとなるぞ。……これは骨が折れるわい」
「むむー」
ゴードンの考えでは、相当量の強度を持たせるためにかなりの鉄がいるらしい。
しかし、そんな鉄がどこにあるというのか。
「わしもある程度は手持ちがあるが、この量となればのー」
「ないかー」
「ないのー」
とすると、あとは発注するしかないのだが、輸送費がかさみそうだ。
さらにはそこから精錬して、試作して──となると相当に時間がかかるな。
「むー。面白そうな機械じゃし、ワシも是非にやってみたいが──……おぉ、そうじゃ! 鉛でつくるのはどうじゃ? あれなら、村にそれなりの──」
「ダメだ」
「む? なぜじゃ?」
ゴードンは不思議そうな顔。
だが、これだけは田中としては譲れない。
「鉛は人体に有害なんだ」
「……なに?」
おっと。
……どうやら、この常識はまだない様子──。




