第18話「水道」
「「…………水道??」」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする二人。
「──水道って、あれか? あの、どっかの帝国がやっておる巨大なやつ?」
「え? なにそれ、私知らない」
ふむ。
どうやらゴードンはある程度知っていそうだな。さすがドワーフ。
もっとも、ゴードンが言っているのは古代ローマ帝国にあったような大掛かりな水道装置だろう。
「いや、そんな大それたもんじゃないよ。規模は……この店の需要が賄えるくらいかな」
「んー? よくわからんのー」
「私は最初からわかんない」
ポリポリ。
サクサク。
二人してオツマミをかじりながら「?」顔。
「そこでゴードンに確認があるんだが、昔ここって酒蔵だったんだろ?」
「む?……うむ。よい酒を造っておったな──。まぁ、ウィスキーほどではないが……」
ふむ。
とするとやはりあるはずだ。
「酒つくりには燃料と原料──そして、良質で豊富な水が必要だ」
「そりゃそうじゃろ。……あ、あぁ。そういうことか」
うん。
そういうこと。
「なるほどのー。確かにここらには豊かな水源がある──ついてこい」
そう言って予想以上に飲み込みの早いゴードンはツマミの皿をがっしり掴むと、ポリポリしながら先頭に立って歩きだした。
一体どこに行くのか、一瞬メルシーと顔を見合わせてついていく二人。
そして、
「ここじゃ」
「うわ」
「洞窟……」
そこは店の裏の岩だなにひっそりと空いていた小さな洞窟であった。
「ここの奥じゃ、たしか地下水脈に通じる地底湖につながっておる」
え?
「ち、地底湖?」
「ええー知らなかったー」
地元のメルシーさえ知らないとは。
「ってことは、それって相当深いよな?」
「そうさなー……1時間も潜ればあると聞いたが、ワシは見たことはないの」
一時間?!
「いや深すぎだろ! つーか、どうやってこ昔の酒蔵はここから水を引いていたんだ?」
……井戸を掘るのにだって、2,30メートルは掘らなきゃならないんだぞ?
つまり、地下水の水位分の20メートルは下る洞窟ってことになる?
しかも1時間って……。
「相当複雑なんだよな」
「おそらくなー」
ええー。
じゃー一体どうやって水を引いてたんだ?
高低差が最低2、30メートル。しかも、距離1時間の地下。
「まさかサイフォンの原理……それとも、ぶつぶつぶつ」
まったく予想がつかない。
田中としては、もっと単純な構造だと思ったのだが、過去の酒蔵はもしかして相当に高度な文明をもっていたのだろうか?
「うーん。いくらなんでも1時間規模の洞窟から水を引くのは現実的ではないなー」
「ならどうするんじゃ? おぉ、思い出した──たしか、水源のほかにも、氷室にしたり、酒の保管庫にしておったようじゃぞ」
ほう。
ってことは、モンスターなんかはいないのか?
「いや、どうじゃろのうー。ダンジョンでもないし、天然の洞窟モンスターは滅多にわかんが、それでも入り込むことはあるから定期的な駆除はいるじゃろうの。それに地底湖にもなにかおるかもしれん」
うげ。
そんな地底湖広いの?!
「いやいや、絶対行かないから」
怖いわ!
地下とか、洞窟とか、ましてや地底湖なんて──ブルブル。
「むぅ? ならどうやって水を引く。井戸からつなげて毎回引くのか?」
「そこなんだよなー」
ちょっと洞窟の利用は後回しだな。
そんな奥深くから水を引くとなると、巨大な排水ポンプのようなものでもない限り無理だ。
そしてそんなポンプがあるなら────……ポンプ?
「んん? ちょっとまてよ」
「どうした?」
しッ!
今何か思いだしそうなの!!
水
水──……水道。
西部劇…………あ、
「そうか! 手押しポンプ!!」
西部劇と言えばそれだ!
荒野を旅したガンマンが、町に着くなり馬に水をやるために、井戸の傍の手押しポンプをがっちゃんこがっちゃんこ──!
そう、あれだ!
手押しポンプがあった!
……よーし、決めた。
「ゴードン手を貸してくれ」




