第16話「ハードタック・トレイルパイ」
「まずハードタックを砕く」
「ふむふむ」
お次は、
「乾燥肉を細かくちぎる」
「ほうほう。工程はある程度同じなのね──」
まーな。
「んで、ナッツ、ドライフルーツも細かく切るか、砕く」
ちなみに種類はなんでもいい。
ナッツはローストすると、なおイイ。
「──それを全部ボウルに混ぜる」
「こうかな」
ザックザック。
「そうそう──そんで最後にこれ!」
ジャン!
「あ、麦芽糖かー」
「そうそう。溶かしたこれを混ぜてから自然に冷やして固めると──」
「お! おぉー。なんかパイっぽくなった!」
まぁ、なんちゃってパイなので、焼いてすらいないけどね。
「あとはこれを適当に成形して──さらに盛り付けて、」
「仕上げに塩とハーブね!」
お。そうそう。
さすがメルシーちゃん、宿屋で食堂を手伝っているだけあって手際がいい──……。
「……って、ちょっとぉぉおおおお!」
スパイ!
いつの間にスパイしてるの!?
「いつの間にも何も、ブツブツいってるから、お邪魔しまーすって言ってから、横に立ったらボウル渡してきたんじゃん!」
「え……いや、そんな────え? マジ?」
それ、俺やばくない?
「うん、途中ちょっと怖かった」
「うっそー!」
うわ、ほんとだ。
無意識でバトンタッチしてたわ! ちゃっかりメモもとられてるし!
「まーまー、いいじゃん。ライバル店の偵察なんてよくあることだし」
「いやいや、YOUはウチのレシピぱくりすぎでしょ!」
この前も村に仕入れに言ったら、ちゃっかり以前の2品ぱくられてたし!
「えへへへ」
「いや、褒めてないからな?」
怒ってるからね、わりと。
「いいじゃん。ウチも宣伝してあげてるんだし──」
「むぅ。それは事実っちゃ事実なんだよなー」
実際、滅多に通らない通行人も、村を経由してわざわざ立ち寄ってくれることがある。
その客のおかげで少しづつサルーンらしくなっているのも事実。……もっとも、それも4、5人だけどね。全員、近くの農夫さんか、行商人だし──。
「それで商売のほうはー?」
「ぼちぼちでんなー」
つまり大して繁盛してない。
「そっかー。それならウチと同じだねー」
「……毎日来てるもんねー」
そして売り上げの半分以上が、この子とゴードンなので、なんだかんだで邪険にできない。
「毎日はー…………あ、来てたわ」
「うん」
そして、そろそろ──。
「うぉーい、帰ったぞー」
「おかえりー。じゃなくて、いらっしゃ〜い」
もう一人の常連ゴードンのお出ました──って、酒くさっ!
「がはははは! すでに飲んできちまったぜぃ」
「いや、来ちまったぜぃ、じゃねーよ。飲んできたなら大人しくそっちで飲んでなよ」
ウチのサルーンまで村から3里(あるいて3時間くらい)はあるんだぞ?!
「いやー。一日一回は来てここで酒飲まんとな。──腹もすいたし」
「あー……それ完全にアル中だぞ」
田中さん、よく知ってるんだ。
なんぜ元アル中で、アルコールで死んだし。
アル中はルーチン化してしまうんだよね、酒飲みのパターンが……。
「失敬な誰がアル中じゃ! ちゃんと仕事もしとるわい」
「仕事するアル中もいるっつーの。……飯、これでいいか?」
出来立てのパイ。
「お、いつもの甘いやつか! 腹にたまるから好きじゃぞい」
「アンタ酒好きなのに、甘いのも好きだよな」
「それ関係あるんか?──それより、飯の前に水くれんか? 結構フラフラ」
あー。
「悪いけど、ぬるいのしかねーな。冷たいのが飲みたいなら井戸いって自分で汲んでくれ」
「客に汲ますなよ」
といつつも、素直に水を汲みに行くゴードン。
気温と砂塵のせいもあって、井戸から上げると水はす〜ぐにぬるくなって悪くなる。
結果、しょっちゅう水汲みが必要になるんだが、面倒この上ない。
自分が飲む分は湯冷ましの水でもいいんだけどねー。
「私行こうか?」
「いいよ。飲みたい奴にやらせとけ」
「客にやらせることじゃないわよー」
いやー。
客っつーか、ゴードンもメルシーもなんか身内感がすごくて。
「……つーか、遅いな?」
「落ちてるんじゃない?」
まっさかー。
いくらゴードンが酔っぱらってても裏手にある井戸だぞ?
しかも、元々廃墟だったここの井戸を復旧させたのもゴードン自身で、自分で掘った井戸にはまるアホが────ドッポーーーーーーーーン!
「いたわ」
「いたね」
…………ッ!
「「ゴードン!?」」




