第13話「『ハードタック・ビーンズ・クラッシュ』と『ハードタック・ジャーキー・スラム』」
「ほーう、大きぃでよったな──よっしゃ、なら食わしてみぃ!」
おうよ!
──万能レシピ、発動!
カっ!
ジキジキジキジキ……!
「ッ! な、なんやそれ!?」
「俺のスキルって奴だ。……まさか、ルール違反だとかは言わないよな?」
むぐ。
「……そ、それを直で食うわけやないしな、ええやろ──好きにせい」
「どーも」
そうして、弾きだしたレシピは3枚。
甘いの、しょっぱいの、ガッツリ系だ。
まず逸品目。
ガッツリ系からいくか!
「腹減ってるだろ? まずはこれを食って、空腹を満たしな!」
「んなぁ?! お、お前まさか、それを食え言うんやないやろな!」
それこと、
田中がさっそく手にしたのはなんと「ハードタック」だった。
たしかに、がっつりだし、腹には溜まるだろうが、鉄のように固いそのパンは、およそすべての人民に嫌われている食材ナンバーワンだ。
──理由は簡単。
固い、
口に水分全部持っていかれる。
まずい、
そして堅い。
とにもかくにも堅いパンは、ロングボウ兵の長弓すら跳ね返したという逸話もあるとかなんとか。
そのせいでついたあだ名が「アイアンプレート」……まぁ、それくらい堅いってことだ。
「おまぁあ! そ、そんなもん食わんで! 絶対食わん! なんで、街の近くまできて、そないなもん食わなあかんねん!」
「くくっ、まぁそういうなって──。なにもこのまま出そうってんじゃないぞ」
「は、はぁ?!──せやかて、堅パンは堅パンやろが!」
「バーカ。こいつも立派な食材だぜ?」
「食材ぃぃい……そんなもん非常食やで?」
わかってるっつーの!
「……だから、こいつを料理する」
「は?……鉄板を?!」
鉄板いうなや。
立派なパンだっつーの。
「まぁ見とけ──」
ビリッ!
万能レシピから出てきた紙を棚に張り付けると、さっそく厨房で調理に取り掛かる。
材料はここにあるものだけ、交じりっけなしの異世界料理だ。
そして、メニューは脳裏に過ったあのメニュー。
西部劇で、カウンターに無造作に並べられていた如何にもボリューミーな飯……。
その名も、
『ハードタック・ビーンズ・クラッシュ』ッッ!!
「「「ハードタック・ビーンズ・クラッシュ?!」」」
……ハモるなや。
ゴードン以下、3人の声がぴったし一致したその料理名こそ、
西部劇の男たちが腹にたまるものを求めた結果出てきたものだ!
材料はいたって簡単。
「まず焼き豆を作ってそいつを煮込む!」
──ジャジャッ!
調理前に水でもどしておいた豆をサッと鉄の大鍋にぶち込むと、コンロにかける。
火の調整は、炭から熾す時間がないので、今日は贅沢に火の魔石を使わせてもらうことにした。
ぐつぐつぐつぐつぐつ。
その間に、不評間違いなしおハードタックに手を入れていく。
「お、おい、まさかそれぶちこむだけちゃうやろな」
不満かつ不安そうな顔のエルフ。
しかし、
「だーってろ」
田中は一喝。
まだ何もできていないのだから、まずは見てろ。
──手間暇かけてこその料理だ。
そのまま、マルチタスクで次の手順を進めていく。
次は、ゴードン作の調理器具を使ってハードタックを砕いていく作業だ。
豆が煮立つ音を聞きながら、まじでアイアンプレート並みのそれを、硬い樫の木でできた「すりこぎ棒」でゴリゴリと。
「よっし……!」
さっそく汗が噴き出てきたが、それでも大雑把に砕くことができた。これは細かすぎてもダメなのだ。
やや粗めにしたほうが食べたときにザクザク感が出る。
それからすぐに別のしこみも進めていく。
お次は乾燥肉の処置だ。
いくつかあるうち、とくに脂身の多い部分を選んで薄くスライスしていく。
そして、やや薄めの塩水に浸して少し柔らかくしたあと──フライパンでさっと炙ってカリカリにする。
「本当はベーコンがあるといいんだけどな」
そしたら水に戻す手間が省ける。
もちろん、乾燥肉でも十分だ。ちなみに、揚げている途中ででる油は絶対に捨てない!──これも使うからな。
「あとは、カリカリに揚げた乾燥肉を、この煮立った豆に混ぜて弱火にするとしばらく放置──」
そsて、仕上げに柑橘を絞ったもの、
岩塩、ハーブで味を調えていく。
「そのまま20分ほど煮込んだら──……最後に軽く残り油であぶったハードタックの欠片をぶちこんで蓋をする!」
「お、おぉ……?!」
「いい匂いじゃの」
「へー。メモメモ」
ふふん!
どんなもん────って、おい最後の奴! パクんな!
「ったく──ほれ5分ほど蒸らしたら……はい、完成!」
ごとっ。
鍋に入っていたのはとろりとふやけたハードタックの主張が激しい豆の煮込み料理──「ハードタック・ビーンズ・クラッシュ」だ。
「おー……」
ごくり。
「う、うまそうじゃの」
「へ、へー。やるじゃない……」
ふふーん。
喉を鳴らす3人に、大雑把に盛り付けて出してやる。
すると、あれほど嫌だと言っていたハードタックが、ほどよくシチューを吸って難も言えない香しく輝いており──それを一口。
パクっ。
「「「ッッ!?」」」
う、う、
「「「うまーーーーーーーーーーーーい!」」」
うまい、うまい!
「うまいでぇ、これ!」
「むぐ、もぐ、もぐぐぐ……」
「サックサクのザックザク! 美味しいし、触感が楽しいわねー」
ふふん、どやぁ!
田中が思い出したのは西部劇での料理シーンだ。
それもサルーンでの料理というよりも、荒野でガンマンが適当にありもので作ったキャンプ料理だった。
「どうだ? これならほぼ保存食だけでも作れるし、こんな状況にピッタリだろ?」
「く……や、やるやないか!」
「うまいのぉ」
「おいしい!」
「ぐぬー。せ、せやかて、一品くらいでガタガタ言う気か──こないなもん、旅の途中でも──」
「まだ終わりとはいってねーよ?」
これはあくまでも腹ペコのエルフに作った一品だ。
いわゆるガッツリ系。
「お次はコイツだ!」
ジキジキジキジキジキッ!
ビリッ!
再び万能レシピから出てきた紙を棚に張り付けると、今度はタオルをバンダナ代わりにして頭に巻く。
次の厨房はきっと灼熱地獄になるからな!
「さぁ、そいつを食って大人しく待ってな──」
「くっ!」
なぜか悔しそうにがっつくエルフの少女。
それを勝ち誇った目で眺めつつ田中は次なるメニューに取り掛かる!
さーていくぜッ、
カっ!!
お次は、
「ハードタック・ジャーキー・スラムだ!」
「「「ハードタック・ジャーキー・スラム!?」」」
おうよ!
こいつは簡単お手軽、しょっぱい系料理だ!
材料もさっき使った奴をそのまま使えるから実にらくちん。
「すーぐにできるから大人しく待ってな」
まず準備するのはさっきの乾燥肉と砕いたハードタックの小さな欠片だ。
ちなみに、さっきは脂身のところを使ったけど、今回は赤身を中心にして、それを細かくちぎる──。
これで下準備はOK!
「どーよ」
「いや、え?」「お、おう」「なんでドヤ顔なの?」
もちろんなんとなくだ。
それよりも、次はラードをたっぷり!
さっき揚げた鍋をそのまま使って、熱く熱してラードを溶かしていく!
ジャァァアアアア!
すると、たっぷりのラードの池が完成する。
「──そこに、ドポン!」
さっきの余りのハードタックの欠片をぜ~~んぶ、いれる!
「おぉ!」「なんと!」
「え……そこ驚くとこ?」
つぎに、
カリッと揚ったハードタックを掬い上げて、布巾にのせてで余分なラードを吸い取る!
「そして──最後に……」
混ぜる!
さっき千切っておいた乾燥肉と一緒にボウルにいれて混ぜに混ぜる!!
ガッシャガッシャ、
あちちちちち……!
「あとは味の調整に──」
岩塩を砕いていれて、
チーズで風味つけて、
そして、ハーブで少し辛みを足したら……。
「──仕上げに麦芽糖!」
ほぃっ、
ベチャと入れて豪快にからめる!
「「「おぉぉぉー」」」
パチパチパチッ。
「よーし二品目完成」
ドンッ!
「どうぞ、このまま分けて食ってみな!」
ボウルのまま3人の前に豪快に置いて完成だ。
「な、なんかキラキラとしとるで」
「おー。スパイシーな香りがするのー」
「むむ……やるじゃない。これ、簡単でいいわね」
だ、だけどお味がまだわからな──────……ぱくっ。
「「「う、う、うまーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」」」
はっはっは!
そうだろうそうだろう!
そして、そろそろかな……。
「うまいうまい! うまいで!」
「止まらん、止まらんぞぉ!」
「あちっ、あちっ。……でもザクザクでカリカリ! これ止まらないわねー」
ふっふっふ。
それだけじゃないぜ。
俺は言ったよな──この料理が、しょっぱい系だと!!
「う、ううむ、こらぁうまいけど……」
「お、おう。あれが欲しくなるのぉー」
チラチラっ。
「で、でもぉ、これって、ここにあるだけの材料の勝負だしぃ」
チラチラッ。
ゴードンとメルシーちゃんの何かを言わんとする視線がサクサク食べ勧めるエルフに向いている。
そしてついに、
「……わーったわーった! 勝負はとりあえず置いといて、これはあかんわ!」
酒がほしいなるわー!
「がはは、話せる奴よのぉ」
「わかってるぅ」
はいはい。
どうせ出すのは田中なんだけどね。
「ウィスキーでいいかい?」
「うぃすきー?」
あ、エルフは知らないんだっけ?
「おう、それでええぞ、絶対合うわい」
「ほな、ウチもそれで──」
「私もー」
うんうん。
このしょっぱさはやっぱりウィスキーだよね。実は、唐辛子の粉があるともっと辛くておいしいんだけどね、ないならないでも十分うまい!
「ほい、ショットグラスでどーぞ」
「なんじゃ、小さいコップか」
ゴードンがガッカリしていうと、エルフも訝し気。
「あん? 他にあんのか?」
「うむ。これを飲むなら、もっと大きいカップのほうがのー」
ゴードンはいつも倍以上はあるウィスキーグラスで飲んでいたからな。
だけど仕方ないのだ。グラスで出してもいいんだけど──。
「……悪いな──氷がないから、なるべく少しづつ飲んだほうがいい」
「氷ぃ??」
おうよ、ロックが一番うまい。
……だけどないもんはないからな。
なので常温のときはショットグラスに限る。
「──でないと、めちゃくちゃ酔いが回るからな」
そういって、ダンダンダンッ! と勢いよく出したショットグラスに、異次元BOXから取り出したウィスキーを一気に注ぐと、3人の前にズイ!
それを三人が一気にグイッ!
「「「──っかぁぁあああ!」」」
──ダンッ!×3
うまい!
うまいでぇぇええ!
「なにこれ美味しいわねー」
メルシーちゃんが大絶賛。
「そうだろうそうだろう」
そしてゴードンはうんうん激しく頷く。
さらには、
「なるほど──確かに、これは氷やな」
「ん?」
思案顔のエルフが、少し瞑目したかと思うと、
ヒュォォォオ──なぜか突然気温が下がって、窓に霜が張る。
「は? な、なにが──」
寒っ。
しかし、次の瞬間。
──ガラガラガラガラッ。
「……こんだけあれば足りるか?」
「ッ!」
こ、氷?!
「おうよ、氷魔法や──……なんやその顔、ウチをなんや思うとんねん」
「関西弁エルフ」
「あほ! 魔法種族のキュティーエルフじゃ、馬鹿垂れ! こんくらいの魔法はお手の物じゃい」
「おっほー! やるおるわい。おう、タナカの──ロックで頼むわ」
「私もー」
「馬鹿垂れ、まずはウチやろがい!」
わいわいわい♪
思いがけず大量の氷をゲットしたので、ロックを作ったのは言うまでもない。
そして、残りは異次元BOXを介して冷凍庫に入れといた。