第12話「ハードタック尽くし」
「今ある食材だけやで──」
「わ、わかってる……!」
今ある食材、
今ある食材──。
それは、あの村で仕入れたものだけを差す。
そして、それは初めから困難な勝負でもあった。
なせなら、あの村の食材ではどうにもならないからこのエルフを頼ろうと思ったのだ。
まさに本末転倒だが────……このエルフを唸らせることさえできれば勝利できるのだ。
ならばやってやるさ!
こっちには現代日本の知識と、万能レシピがある!!
「いいだろう! うますぎて腰ぬかすなよー」
「かっかっか。抜かしたら嫁にいったるわ」
いや、それはいらん。
「ずこー!……そ、そこは望むところだ! やろが!」
「いや、口の悪い貧乳エルフはちょっと……」
誰が貧乳じゃぁぁあ!
「はいはい、脱がない脱がない。あと、タナカさん、女の子にそーいうのはセクハラですよ」
「確かに下品じゃが…………女の、子??」
うがー!
「そこのドワーフは人の歳バラしたら500年呪ったるでー」
「……ホンマに500年呪いよるから怖いわい」
がっはっは!
「いや、がっはっは、じゃねーよ。つーか、何歳だよ」
「レィディ~の歳を聞くなアホ! そないなことより、さっさと料理せい、ウチかて暇ちゃうねん」
「……わかってるよ」
そうだった。勝負はここからだ。
そうとも──やるしかないんだ。
そうして、食材を見つめる田中。
あの村で仕入れた乏しい食材を並べていく。
とはいえ、これらはどこの村でも売っているありふれたものばかりで基本や長期保存の品が中心だ。
・乾燥肉
・柚子とレモンみたいな果実、2種
・ハッカみたいなハーブ類
・ドライフルーツ(ナツメグ、野性のブドウ、ザクロ等など)
・ナッツ類
・麦芽糖
・岩塩
あとは生鮮食品として
卵、ヤギの乳とチーズ、ラード、そして豆類くらいなもの。
そして、主食のハードタック……。
「うぐ──」
これで料理??
一体何ができるんだよ。
日本の料理しかイメージのつかない田中は必死で脳内をスキャンしていく。
最初にこのサルーンを思いついたように、かすかな記憶を頼りに──…………砂塵の埃を嗅ぎながら、どこかにヒントが。
「ッ!……なぁ」
「なんや」
ふんぞり返ったエルフの少女に静かに確認するう田中。
「お前、甘いのとしょっぱいの──どれが好きだ?」
「は? そらぁ、どっちも好きやで──旅してるときは疲れたときにはガッツリ食えるもんに、甘いモンがあると嬉しいな」
ほう。
「あとは、夜はしょっぱいもんやな。疲れた体に沁みるねん……。酒に合うしょっぱいもんがあったら疲れが吹っ飛ぶわ!」
ほうほう。
「なら決まりだな──」
砂塵の先に、エルフの少女が見えた気がした。
小さな焚火に足を温めながら包み込むようにカップを掴んで強い酒をちびちびと飲む姿が……。
「甘いのもしょっぱいのも、お前にぴったりに作ってやるぜ!」