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第11話「エルフの商人」

「いや、瓶もそうだけど──中身を気にしろよ」

「中身ぃ? 水ちゃうんか?」


 アホっ。

 日本酒だよ、日本酒!


 まぁ、水に見えるほど高精度でつくられているので、見間違えるのは無理もない。


「はん! 嘘言うな。こない透明な酒があるかぃ!」


 いや、だから……。


「どう説明したらいいやら──」

「飲ませてやったらええじゃろ」


 あーなるほど。

 ……って、


「アンタも飲みたいだけだろ!──まぁ、味見しないとわからないか」


 パキッ!

 プラの封をきると、栓をぬく。


「……ひとり、一杯づつだかんな!」


「「「はーい!」」」


 なんか声が三つ聞こえるし……。

 ゴードンはしゃーないとして、なんでメルシーちゃんも当然の顔してコップだしてんだか、まぁいいけど。


「ほら、こぼすなよ」


 エルフちゃんにカップに注いだお酒を手渡し。

 それをひったくるようにして──。


「はん! たかが酒でたいそうに──」

 ……むむぅ!

「み、水かと思ったら酒の匂いがするな! それもなんや? えらい芳醇な香りや」

「だろ? 味もいいはずだぜ」


「うむ。これはいい酒じゃ──ワシも先日あじわっがこれはいいものじゃ」


 そういってゴードンはすぐには飲まずに香りをかいでいる。


「む、むぅ。変わった瓶に透明な酒か……たしかに珍しいな。だけど、肝心なのは味やで味────ぃうぅうまーい!!」


 反応はやッ!

 そして、おもろ!!


 目ぇ、ハートになってる人初めてみたわ。


「あ、ホントだ。おいしいわ」

「うむ。これはなにかの穀物かのぉ──果実のような甘味があるが……あれと違う別の甘さの気がするのぅ」


 さすがはゴードン。

 酒の利きはお手の物か。そして、メルシーちゃんも気に入った様子。


「こ、これはすごいで……そんでウチ、これ知っとるわ」

「え?」


 清酒を?

 しかも日本酒だぞ?


「……()やな、これ」


 がたっ!


「し、知ってるのか?!」


 思わず、ぐわし!

 あ、柔らかい……。ちゃんと女の子──って、いだだだだ!


「急に女の子つかまないの!」

「い、いや。なんでメルシーちゃんが俺の顔をアイアンくろぉぉお!」


 いだだだだ!


「……び、びっくりしたー。ウチかて年ごろやでぇ、まったく急に──で、なんやっけ?」

「あ、あぁ、悪い。しかし、知ってるのかこれを」

「まぁな。前に食うたのとちょっと違うけど、麦とは違う穀物で──米いうもんやろ? それを酒にしたもんちゃうか」


「……あたりだ」


 もしかしてとは思ったけど、やはりこのエルフは世界中を回っているようだ。


「やっぱりそうかー。もういっかい飲んでみたいとは思とったとこやが、まさかここで味わえるとはなー」


 どうやらエルフの少女が飲んだものは同じ酒でも製法が違うもののようだ。


 そして、最初に水と間違ったことから、

 おそらく彼女が飲んだものはもっと原始的な手法で造られた──にごり酒だったと思われる。


「そうか。そうか──ほしたら悪いこと言うたな。たしかに珍しいもんや。……で、これで取引したいっちゅうことでええんか?」

「あ、あぁ。……いや。それもあるが、本題は別だ」


「──別ぅ?」



 こうして、神妙な顔をしたエルフの少女に簡単に事情を説明することになったのだが……。



「──かくかくしかじか。こういうわけで──」

「いや、かくかくしかじかじゃわからんて……あーつまり、総量に限界があって、いずれはなくなるっちゅうことか──」


 いや、分かってんじゃん!?

 そして、理解はやいな、そりゃ助かるけどさぁ!


「──あぁ。まぁそういうわけだから、これがあるうちに商売を軌道にのせたいんだよ。そして、できれば再現したい」


 レシピはあるんだ。レシピは。

 ……ないのは材料──そして、技術だ。


「ほうほう。だから、ウチに素材をそろえてほしいっちゅう分けやな」

「理解が早くて助かるよ」


 さすがは商人だ。


「ん、ええやろ──つまり、専属商人ちゅうわけか」

「専属ってほどでもないけど──まぁ、そう捉えてもらってもいい」


 そうだ。

 専属とまではいかないけど──今の田中に足りないのは、素材と技術だ。


 そして、それらを自分でそろえるのはほぼ不可能。


 酒でボロボロになった体に異世界の旅はきつすぎる。

 だから、誰かに言ってもらうしかないのだが、そんなことをやってくれるような知り合いはいない。


 ならばいっそ商売人に、お金を対価として払い、出来る人にやってもらえばいいのだ。


 その点で言えばこの少女は100点満点中80点くらいはあげてもいい適任者だろう。


 問題は金のがめつさと──信用度。

 まぁその辺はおいおい考えていこう。


「ほな! 決まりやな──」


 膝を叩いてたちあがったエルフの少女は()を差し出した。


「契約成立や!」

「おぉ! 本当か──助かるぜ!」


 これで材料のほうはめどがつきそうだ。

 ならあとは技術──。


「──といいたいところやが、」


 パっ!


「まだまだ甘いでぇ」

「え?」


 急に手を離したかと思うと、チッチッチッチ!


「おまはん、銭もっとるんかいな」

「え? あ、あぁ、それなりに──」


 ゴードンから貰ったもんだけど……。


「はんっ! なぁにがそれなりや──そんな端た金でウチを見受けできる思うなやー」

「いや、誰も見受けは……」


 とはいえ、銭の面では確かに。


「せやろ?……どうせ、あれやろ。売れたら払える。商売繁盛したら商品頂戴──っちゅう、甘いこと考えとるやろ」

「う……」


 それを言われると弱い。

 実際、金貨をいくらか持っているが、これで買える分だけ買ったとして、次までに売れる保証はない。


 なにせ、今のところ客はゴードンとメルシーちゃんだけなのだから。


「ほれみぃ。甘いっちゅうたやろー」

「そ、それは──」


 言葉に詰まる田中に、ゴードンもメルシーも何も言わない。

 言わないが……。


  スッ。


「ゴードン?」

「そいつに飯ぃ、食わしたれ?」


 は?


「そーそー。まずは味を見てからご覧じろってね」


 そういって、メルシーちゃんもゴードンに倣って皿を差し出す。


 ……ふ、二人とも。


「ほーん! ウチを酒以外でうならせるっちゅうんか? そらぁ、難しいちゃうかー」

「はん! エルフの舌は馬鹿舌ちゅうでな、お前にはわからんかもなー」

「確かにねー。食べる前にグチグチいう奴ほど、意外と味のことな~んもわかってないのよねー」


 ムカッ!


「よ、よ、よー言うたな! ほなら食わしてみぃ! 旨いもん出せる言うなら将来性ありっちゅうことでウチも商品下したる! それでどや!」

「え? い、いいのか?」


 まさかの飯勝負?

 それってかなり有利だぞ……!


 なにせこっちにはまだ出していない、日本の食品がいくつかあるのだから!

 ラーメンに、オツマミ、缶詰。……量は多くはないが味なら自信あり────。


「──せやけど、料理言うたらお前の腕だけで作るんやで! それも、その得体のしれんBOX使うんはナシや!」

「な!」


 なんだと……。


「そらそうやろ。酒もツマミも上手いんはわかった。……せやかて、お前のしたいんはそれの再現やろ?──ほなら、それを今あるもんで再現できる腕があることを示してみぃ」


 む……。


 たしかに正論だ。


 いずれ尽きる物資で勝利してもそれは虚構でしかない。

 そう。今求められているのは、ほんとうに再現できるだけの腕があり、その味で客をうならせられるかどうかということ──。


「どや? やるかぁ」


 そういって挑戦的な笑みを浮かべるエルフの少女。

 どうやら、この勝負──思ったよりも厳しいものになりそうだ。

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