第10話「耳の長い客」
「異世界人~?」
「あぁ、そういえば伝わるかな?」
チラッ。
「いや、ワシを見られてものー。そもそも、お前さんが異世界人だと初めて知ったぞい」
「あそうだっけ?」
そういや言ってなかったわ。
「まぁ、そういうわけでよろしく」
「うむ。何がよろしくか知らんが──酒がうまい理由が分かったわい」
「けっ! ドワーフとつるんでる時点で、異世界人だか稲買い人だか知らないけど、ただの商売仇さね」
そういって、ぬるい麦酒の入ったカップを飲み干し叩きつける。
「まっずー!」
「人の店で悪態つかないでくださーい!」
そういって、お代わりを注ぐのはメルシーちゃん。
ちなみにここはいつもの雑貨屋兼酒場ではなく、宿屋の食堂だ。
もちろん、雑貨屋のおばちゃんをエルフの少女が騙そうとしたので現在、絶賛出禁中なのだ。
「まずいもんはマズイんや! よう、こんな酒だせるなー」
「それ以上いうと出禁にしますよー」
「ぐむ……!」
そして、なんだかんだで雑貨屋出禁が効いている様子。
「──ちっ。しゃあないわな。田舎の店ならこんなもんか」
グビグビ。
「で、話ってなんやねん?」
「あ、そうそう」
そうだった、話があったんだった。
ついついエルフの少女が珍しいから呼び止めちゃったけど、別に可愛い(?)から声をかけたわけじゃないのだ。
「いや、可愛い(?)ってなんやねん! 可愛いやろが!」
「あー。最初そう思ったけど、その関西弁とグルグル眼鏡と絶壁のせいで、なんか疑問がでてきてな──いったぁ!」
た、叩いたね?!
親父にもぶたれたことないのに!
「叩いて悪いか! ひとの容姿をくさす奴には鉄拳制裁じゃー!」
「手ぇ、早いんだよ……。ったくもー。ゴードン、コイツいっつもこんななのか?」
なんか因縁ありげなゴードンに聞く。
「こんなんじゃなー。……あと、別に因縁はないぞ? なんかやたらと行動範囲が重なるから、因縁というより腐れ縁じゃ。──そして、いつもコイツのせいでトラブルに巻き込まれる。今みたいにのー」
……これトラブルか?
「ウチからしたらトラブルでーす」
「ごめん、メルシーちゃん」
なんか悪いのでチップに銀貨を渡しておく、すると輝かんばかりの笑顔だ。
うんうん、可愛いってのはこういうのだよねー。
──ごんっ!
「殴んぞ!」
「殴ってる殴ってる! すでに殴ってるから、もー」
いってーな。
「ふん。……で、ウチに何の用や? もう、このクソ田舎で騙し──こほんっ商売はできそうにないで次行きたいんやけどなー」
「あーそれだそれ。……その様子を見るに、色々回ってるんじゃないかって思ってさ」
かなりの大型馬車に、口八丁で商売上手。
おそらく、今回は失敗したけど、かなりのやり手なのは間違いなさそうだ。……まぁ褒められたやり方ではないだろうけど。
「そらそうよ。……そこのゴードンにバッティングするくらいはあちこちいっとるでー」
果ては北の魔王領から、南の死の海域までなー。
「こう見えて長生きしとんねん。世界中で知らん土地はないでぇ」
ドヤ顔で自分を差してアピールの少女。
「……そのうち、半分はトラブル起こして追い出されとるくせによーいうわ」
「うっさいわ! 騙される奴が悪いねん! それに顔変えたらいくらでもやりなおせるわーい!」
そういって魔法を使って男に化けるエルフの少女。
「どや! これで出禁もクリアやでー」
「もうバレてまーす」
そして、メルシーちゃんは釘をさすのは忘れない。
「うっさいなー。で、ウチの素性を知ってなんや?……それは頼み事がある顔やな」
「まぁな。……アンタも商売人なら、珍しい商品やアイデアに興味はないか?」
「珍しい商品ー? うしゅしゅしゅしゅー! 大きくでたなー」
「……今のおもしろいか?」
「さぁてのー?」
よくわからない笑いのツボに首を傾げる二人。
しかし、膝を叩いて笑うエルフの少女は続けて言う。
「珍しいもなにも、この地方で珍しいもんなんかあるかいな! しっかもド田舎でー」
うしゅしゅしゅしゅー。
「あー、何回まで殴っていいんだっけ?」
「二回くらいはよかろう」
「私も殴りたいので3回にしません」
3人そろって拳をバキバキっ。
「ちょ! じょ、冗談やがな! こ、ここかて麦の産地やろ? あれよー高く売れんねん。乾燥土壌のわりに栄養がええのんか、味がええいうてなー。麦酒はくっそマズイけどな」
ごんっ。
「一回目でーす」
「いったぁー。お、女の子なぐるとはどういう了見しとんねん!」
「私も女の子でーす!」
あはは。
言いくるめられてやんの。
「っと、それはさておき、バカにしてるのは結構だけど──これを見て言えるかな」
ニヤリ。
田中の秘策、向こうの世界に繋がる異次元BOーーーーーX!
そこから取り出したりますわ────はい、お酒!
「どんっ!」
「いや、どんって口で────むむむぅ?」
一瞬呆気に取られていたエルフの少女であるが、田中が取り出した酒瓶を見てびっくり。
「こ、これは──」
「どう? 多分、この世界にない酒でしょ」
なんたって、ここは麦の産地。
オマケにこの製法は伝統と工業技術がないと絶対に作れない────そう、純米清酒なのだから!
「びっくりし──」
「なんや、この瓶!! ど、どうやって作っとんねん!」
──ずるっ。
「そっちかーい!」
エルフが目を付けたのはなんと瓶のほうであった。