八十二話、かわいい人の檻
あの指パッチンは、私を縛るものだと思っていた。
けれど、違った。
――自分自身をも、縛っていた。
「……叔父様」
そう呼んでみる。
返事はない。
ただ、黙り込んだまま、視線を逸らしてしまった。
(……恥ずかしくなっちゃったの?)
胸がちくりと痛む。
同時に、じんわりとあたたかい。
脆くて、儚くて。
とても優しいのに、隠して。
不器用で。
(……本当に、かわいい人)
また、頬が緩んでしまった。
こんな時に……でも、止められない。
ゆっくりと彼の体を撫でて、少しでも楽になるように横たえた。
荒い呼吸が、ほんの少しだけ落ち着くように。
落とし子も無事のようで、私の顔を見るとぱたぱたと嬉しそうにしていた。
「頑張ったね」
そう声をかけながら、頭を撫でると、俯く。が、もっと嬉しそうにした。
(偉いね、君も。本当に叔父様に似てる)
そして――
熱波が肌を打った。
視線を向ける。
その先にいるのは、あの人。
ラザリさん。
半竜、いや……それとは別の“なにか”。
異形すぎる、忌まわしいほどの姿。
ふぅ、と短く息を吐く。
炎を吹き出して、陛下の周囲に送り込んだ。
ヴェラノラ様が、それをマントのように翻す。
そして、こちらにひとつ頷いた。
(……かっこいい)
まるで、英雄譚の中心にいる“本物の王”のように見えた。
その背を、目を離さずに見守る。
「おまえの幻想、燃やしてやろう」
業火の中、赤い女王がゆっくりと歩み出す。
その気迫に、ラザリさんでさえ一歩、後退した。
だが、彼は笑う。
表情はどこまでも冷静だった。
「夢は――焼き切れませんよ」
そう言って、掌から黒い爆弾を数発、放つ。
爆音と閃光が、ふたりを覆い隠した。




