七十四話、君を迎えにいく、その日まで
帝王の元に行かないとな。
おそらくラザリも、そこへ向かっている。
内乱を起こすなら、まずは“頭”を討つのが定石だ。
俺が逆の立場でも、真っ先にそこを狙う。
それに、数体放出したはずが、ほとんどいない。こいつかラザリが出したのか?
であれば、急がないとな。
「では、城の方へ……ん?」
実験室を出て、無機質な通路へ足を踏み出す。
蝶は、セレスタの後を追っていった。
ならば、出口もその方向のはずだ――
だが、落とし子たちは別の道を示した。
「そっちは違うだろう」
そう言っても、ぶんぶんと頭を振って否定する。
中には黙って指差す子もいた。
……抜け道か?
何か、他に“ある”というのか。
今の俺はおんぶされている身だ。任せるしかない。
しばらく進むと、遠くから咆哮の名残が反響してきた。
ここには、もはや何かが棲んでいる気配すらないのに。
やがて、通路の奥に扉が見えてきた。
落とし子がそれを――開けるのではなく、ぶち破る。
知恵があるのかないのか分からないが、俺の言葉は通じるようだ。
中を覗くと、入ってと手振り。
俺は一度、地に降りた。
その部屋の中――
幾本ものチューブが這う、冷たい空間の中央。
そこに、それはあった。
竜の遺体。
あれは――
ずるり、と黒衣を引きずって近づく。
見たことのない竜の姿だが、魂が、確信する。
「……姉さん」
王国に、遺体はなかった。
俺がセレスタを抱えたあの時も、なかった。
ただ、ぽつんと墓石があっただけ。
ここに――いたのか。
自己暗示の鎧があるおかげで、涙は出なかった。
いや、出せなかった。
心につけた殻が、壊れるにはまだ早すぎる。
言いたいことは山ほどある。
弔いたい想いも、ある。
それでも、まずは――
「……あとで、落ち着いたら……迎えに来ます。
姉さん、うまく育てられなくて、ごめんなさい。……俺には……あの子は、重たかった」
そう言って、冷たい鱗に抱きつく。
死臭なんて、どうでもよかった。
昔。
ちょうど今の背丈の時だ。
抜け殻に襲われて。
セレスタが生まれた後、また襲われかけた時――
俺を庇ってくれたことだけは、覚えてる。
あのぬくもりのまま、今も胸に焼き付いている。
「……――っ」
終わっていない。
だから今は、まだ泣かない。
ゆっくりと、手を離す。
その骸を、あとにした。




