七十三話、壊れて、ようやく証明できたね【バリストン視点】
「はは……どうした? もう終わりか?」
壊れたカプセルの陰に佇む俺。
背中には、子どもに抱きかかえられるようにして。
パキリと音を立てて、わざわざ存在を主張する抜け殻――いや、まだ“それ”と呼ぶのも憚られるか。
その哀れな姿に、あえて煽る。
余裕がないのだろう。
無様だな。
まるで日頃の鬱憤を晴らすように、落とし子たちが殴り、蹴る音が響く。
乾いた打撃音。柔らかな肉を叩く鈍い音。
ちゃんと“飴”は与えてやる。
目の前に来てみると、奴は這いつくばっていた。口元からは血が滲み、白衣も真っ赤に染まっている。
相当、こっぴどくやられたらしい。
周囲の子どもたちも満足げだ。
手元から転がり落ちた魔導銃を、つま先で蹴り飛ばしてやる。
「ほら、ペド野郎。俺が欲しいんだろ?」
涙目で、俺を見上げる。
ずるずると、蛇のように這ってくる。
俺の足元に手が届く前に、蝶の術で姿を消した。
「僕は……僕は……ただ、存在していると示したいだけなのに……」
何かを呟いている。
悲鳴でも、懇願でもない。
ただの、独り言。
その時、黒い丈の長い服を子どもがくいくいと引っ張った。
もっと遊びたいのか。
……まあいい。
俺から手を下す価値はない。
好きにすればいい。
サポートに回ってやる。
頷いてやると、子どもは嬉しそうに動いた。
小さな体とは思えない力で、奴の襟元を掴み、放り投げる。
――ボールのように、遠くへ飛んでいった。
俺はその方向へ黒い蝶を飛ばす。
待ってましたとばかりに、落とし子たちが追いかけていく。
楽しそうに。
まるで、ボール遊びだ。
一人が駆けて、頭を蹴る。
宙に浮く抜け殻。
別の一人が蝶の力で瞬間移動し、腹を蹴り抜く。
次々と、追い打ちをかけていく。
「よかったな。遊んでもらえてるぞ。
存在してるじゃないか……ボールとして、だがな」
「……ノル……」
懇願の視線。
やめてくれと、そう言っていた。
でも――やめなかったのは、どっちだ。
胸の奥で何かが泡立つ。
怒りとも、嘲りとも、つかない感情。
察したのか、また子どもが腕を掴み、再び放り投げた。
そうして彼らが遊んでいると、奴はとうとう壁まで到達した。
随分と大きな実験体収容施設だが――
どうやら、こいつをボロ雑巾にしてしまったらしい。
ぐったりしている。
なんだ。
加護も使わないのか。
……いや、使っていたことがわからなかっただけか。
どっちでもいい。
「……」
「せめて……君の手で……」
何かを懇願している。
哀れな声色。擦れた、掠れた音。
だが――俺が始末する価値もない。
そもそも、願いを聞くつもりなど微塵もないし、叶えてやる気もない。
ただ見下ろすだけでも、案外、気分は悪くないものだ。
……もしかしたら。
これは、あの子――セレスタのおかげかもしれない。
「却下だ。ただ、おまえを野放しにするわけにもいかない」
始末の手段を思案していると、てち、てち、と軽やかな足音。
嬉しそうに何かを抱えて近づいてくる子。
――注射器か。
中身は、睡眠薬ではないな。
知識がある。毒だ。
「それを刺してあげなさい」
動かぬ抜け殻に近づいて、子が素直に従う。
本当に――抜け殻のような存在だ。
「ゆっくり死ね。俺は看取らない。一人でな」
背を向け、落とし子の腕に抱かれて去っていく。
もう、二度と振り返らずに。




