七十話、夢に見た紅焔、腕の中で
――まさか。
「……セレスタ!」
赤の君が、誰かを振りほどくようにしてこちらへ走ってくるのが見えた。
ああ、あの人は――!
「アッシュ様!」
走り込んで、そのままぎゅっと抱きしめ合う。
温もりを含んだ炎。
夢にまで見た、私だけの炎。
レイの姿のせいか、少しだけ陛下より背が高い。
だから、すっぽりと腕の中におさまってしまった。
私の時は、アッシュ様の腕に収まる。
――ああ、だから可愛いって、よく言ってくれていたんだ。
それと陛下の久しぶりの香り。
陽の匂いと香水の匂い。
……落ち着く。
「……っ」
――あれ……?
アッシュ様、もしかして……泣いてる……?
顔は見えない。
でも、ぐっと頭を押しつけてきたその仕草が、言葉よりも感情を伝えてくる。
上司なのに。
こんなとき、何か気の利いたことでも言えたらいいのに。
……でも無理だったから、ただ黙って、頭を撫でてあげた。
ある程度落ち着いたのか、ようやく顔を上げて、私を見上げてくる。
「……なんだか、見ない間に変わったな」
「レイの姿ですから」
優しく、陛下の目元を指先でなぞる。
少しだけ、濡れていた。
綺麗な赤金に、私の姿が映っていた。
「……ちょっと」
不意に、背後から声がした。
人形みたいな容姿。
微かに眉を歪めていた。
それすらも彼女を知らない人から見れば、美しいとさえ思えるのかもしれない。
――が、聞いてしまった本心。
友達ができたと思ったんだけどな。
彼女からは奇妙な問答。
「私の王子様、返してくれない?」
「……リリエル」




