六十九話、炎を纏って、拒む
「セレスタちゃん、待って!」
聞き覚えのある声。
男にしてはやや高めの、甘ったるい声音。
振り返ると、そこには――リデルの姿があった。
もしもっと別の場所、別の立場で会っていたなら。
例えば王族だったなら、誰もが王子様と呼ぶだろう。
でも、童話のお姫様がついていく相手ではない。
私は、何度も裏切られてきた。
彼は、誰かを守りたくてそうしているのではない。
ただ、自分のため。
自分の美しさを確かめ、価値を証明したいだけ。
綺麗なモノを集める。それだけ。
迷わず、無視を選んだ。
「待ってってば! お人形でいてよ、ボクも綺麗なんだから、お似合いだよ?」
しつこくついてくる。
走りながら口を滑らせてきた。
「ほら、落とし子もいっぱい逃げてるんだよ? 危ないってば!」
よくそんな状況で口が回るなぁ……と、内心で呆れながら、私は何も言わず、黒い蝶だけを見つめていた。
アッシュ様……
蝶が居てよかった。
帝都だけでも広いからむやみに探し回らなくて済む。
「ねえってば!!」
と、足を掠めた。
後に鈍い痛み。
「――っ」
魔道銃で撃たれた。
それが分かったのは彼を振り向いたから。
片手で装飾のついた魔道銃を持っていた。
今は少し下に銃口は向けられている。
「あは、やっと見てくれた。皆見てくれないから……君だけでも」
「あなたは……可哀そうですね」
確かに拘束されている間。
彼を見ている人は見たことがない。
あの小さな落とし子たちでさえ。
彼を見も、感謝も、愛してもいない。
多少同情はする。
でも――
「私はあなたの装飾じゃないので。さようなら」
パチンと指を鳴らす。レイの姿になった。これは、わざと。
そして、青い炎を纏う。
再び魔道銃を放たれる前に、拳で攻撃する。
素早く間合いを詰める――銃を撃たれるより速く。
そして、彼の頬めがけて殴りかかった。
随分と、飛んだ。
炎が舞い、街が一瞬だけ静まる。
もう人目なんて気にしていられない。
そもそも、民衆でさえ逃げ惑っているのだ。問題ない。
――と、辺りを見回した瞬間。
黒い蝶が、一対ではなく二対。
絡まりながら飛んでいた。




