六十八話、蝶が導く、その先へ【セレスタ視点】
あの人と別れてから、私は黒い蝶を追いかけていた。蝶があの後額に止まって言葉を伝えてくれる。
陛下も同じものを従えているらしい。
いずれきっと――会える、と。
見送ってくれている。
多分心配はしてるだろうけど。
しかし、アッシュ様が、直々にここまで来てくれているなんて。
胸の奥が、ふっと暖かくなる。
あの人の優しさと悲しみ。嬉しさで私はもう、胸がいっぱいだ。
これ以上幸せを与えられたら、きっと息が詰まってしまう。
だからこそ、しっかりと前を向いて歩こう。
もう、迷わない。
それでもちょっと泣きそうになって上を向く。
(書斎……片付けないでよかった)
地上はすっかり暗く、空には月も星も見えなかった。それでも、人通りはある。日没後くらいだろうか。先ほど通ってきた扉の奥から、けたたましい咆哮が響いた。
実験体――?
そう思った直後だった。
巨体が地下通路の鉄扉を破り、怒涛のように地上へと溢れ出てきた。
「っ……!」
咄嗟に身を翻してかわす。
異形の群れを前に、街は一気に混乱に飲み込まれていった。
(うそ……私、何もしてないのに)
思わず立ち尽くす。
――いや。
叔父様が何か仕込んだのかも……?
けれど、そんな話は聞いていない。
(アッシュ様は、知ってるのかな……)
一体、また一体と、異形が雪崩れ出る。
どうすればいい?
手近な個体の顔に拳を叩き込むと、倒れた。
……と思ったのも束の間。
ぬるりと再生して立ち上がる。
(しぶと……! 街の人たちが危ない)
すぐさま警戒を強める――が、その時。
水の檻。氷の牢。魔導加護による封印が次々と展開され、
赤毛が揺れるのが、ちらりと視界に入った。
さらにパンという乾いた音も。
これは帝国の兵士たちもいるのかな。
イグニスの人と帝国の兵士……なんだか連携も取れているようにも見える。
やっぱり、計画されてた……?
混乱の中、蝶を見失わないよう視線を戻す。
すると――視界の端に、白銀の髪がふわりと揺れた。
闇に溶けるように、静かに遠ざかっていくその姿。
――……あれは?
見覚えがあった。
シアーネと名乗っていた人かな?
……いや、それだけじゃない。
どこか、変身した私……レイにも似ていた。
(――空似、だよね? 今はそれより……アッシュ様!)
白髪も帝都では普通だ。
きっと見間違い。
再び蝶を追って走り出そうとした――その時。




