六十三話、口に出せない言葉【バリストン視点】
そんなときだった。
「……これ、叔父様……?」
耳元で、掠れるような声がした。
ぞくりと、背筋が震えた。
(――聞かれた。
正気だ……セレスタは、もう……)
理解してしまう。
意識が、もう俺の呪縛から解けかけていることを。
この状況を、はっきりと認識していることを。
それでも、俺は離せなかった。
(いやだ……いやだ……)
離れたくない。
この温もりを、また失いたくない。
「……叔父様、大丈夫……?」
また、優しい声が落ちてくる。
もう、胸がぐちゃぐちゃだった。
「大丈夫」だなんて、言えるわけがない。
「大丈夫じゃない」だなんて、なおさら。
なにも言えなかった。
声を出せば、すべてが崩れてしまう気がした。
だから、俺は、ただ。
セレスタの肩の服の端を、ぎゅっと握ることしかできなかった。
(ごめん……ごめん……)
本当は、抱きしめ返してやるべきだった。
「ありがとう」と言うべきだった。
「すまなかった」と口に出すべきだった。
なのに、できずにいる。
情けなく、幼稚なまま。
俺はただ、セレスタの肩に顔を寄せ、震え続けた。
それでも、セレスタは何も言わなかった。
歩調を緩め、俺を支え続けてくれた。
まるで、全部、赦してくれるみたいに。
――それが、たまらなく、救いだった。




