六十二話、やさしさの仮説、その答え【セレスタ視点】
腕の中の重さが、愛おしかった。
まだ意識は朦朧としている。
体も思うように動かない。
昔から仕掛けられてきた、阻害。
なんだか懐かしくて、心地いい暗闇。
けれど――どうしてだろう。
もう怖くない。
この温もりだけは、絶対に手放したくなかった。
(叔父様……)
懐かしい匂いがした。
私を育て、守ってくれた人。
……でも、どこか、遠い。
微かに聞こえた囁き。
「消えたくない……。
君から記憶も消したくない……」
それを聞いた瞬間、胸がぎゅっと苦しくなる。
(私は……そんなふうに思われていたの?)
確かに、この監禁生活中。
考えていたやさしさの仮説。
その考え以上だった。
守られるだけの存在だったと思っていた。
ただ、檻に閉じ込められていただけだと思っていた。
だけど違った。
違ったのだ。
この人は、私を――
きっと、私という存在そのものを、
何よりも大切にしていたのだ。
ただ不器用だっただけ。
分かる。
肌で、血で、骨の奥で。
でも今は、おそらく私が目覚めたこともわかってないかもしれない。
「大丈夫ですか? 叔父様」
びくりと跳ねる。
震えているのが伝わる。
だから私は、もっと強く彼を抱きしめる。
この腕の中にいる存在を、もう二度と離さないために。
「叔父様……蝶が、道を示してくれています」
そっと囁いた。
彼が今にも崩れてしまいそうだったから。
道を、光を、見せてあげたかった。
……本当は。
私も同じだった。
道が欲しかった。
出口が、光が、欲しかった。
けれど今は違う。
私はもう知っている。
この人の腕の中が、私の帰る場所だと。
足音だけが、静かに響く。
誰も、何も、邪魔できない世界。
たとえこの先、なにが待っていようと――
この瞬間だけは、守りたかった。
しばらくお互いの胸の内の想いを知ってもらうためセレスタとバリストン交互に視点が変わります。




