64/86
六十話、黒蝶、囁く【バリストン視点】
「ぅ……」
意識が戻る。
喉の奥に苦味が残っている。
身体が重い。魔導薬の残滓が、まだ抜けきっていないのだろう。
あらかじめ飛ばしておいた黒蝶。
短刀に変化して眠りから強制的に目覚めさせてくれた。
肉体的ダメージはないが……夢見は、ひどく悪かった。
起き上がるのはまだ早い。
この牢には、おそらく魔石を使った《魔導視器》が設置されている。
誰かがこちらを監視している可能性が高い。
目を閉じたまま、わずかに身じろぎする。
黒蝶がふわりと宙を舞い、視晶の映像回路を遮断する。
――バチッ。
空気が弾けたような音。
これで、向こうにはまだ俺が眠っているように映っているはずだ。
牢屋か……。
俺にはお似合いだ。
シアーネが即俺の身を暴くかと思ったが、そんなことはなかった、のか。
横を見ると、あの子がいた。
レイの姿だ。
もう、自分で変身さえできるらしい。
この偽りの姿を自分から変えるなんて。
受け入れられたのか。
聞きたい。
しかしーー
そうだ。
いま、誰もいない。見ていない。
それなら、今だけは――




