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五十七話、届かぬ腕の中で

*シアーネ視点


 その体はとても軽かった。

 昔と変わらない。

 こんなにも脆いのか。



「ふふ……僕のもの」



 運ぶというより、抱きしめていた。

 昏睡した黒衣の身体を両腕に収めながら、ひどく甘い息を吐く。


 再び会った時。

 強くなっていた。

 唯一、右目は貰うことができた。

 それは嬉しかったな。


 ただ、それでも食らいついてきたのは本当に怖かった。

 だから、僕も竜になって逃げちゃったけど……。


 でも。

 今は、まるで子供みたいだ。


 ずっと昔。

 それこそ、子供の時みたいに。


 魔道灯に照らされたその横顔。

 かすかに苦悶の皺が浮かんでいた。

 それすら、美しいと思ってしまう自分が、怖い。


(セレスタも……この人を見て、綺麗だって思ったことあるかな)


(あの子にできて、僕にできなかったこと)


 そんなことを考えていると、心臓がキリキリと痛んだ。

 この腕の中にあるのに、届かない。

 こんなに近いのに、まだ遠い。



「目を覚ましたら、僕だけを見てくれたらいいのに……」



 懺悔じゃない。

 祈るような言葉を囁いた。


 ただ、その声音に込めたのは“願い”じゃない。

 “呪い”に近い感情だと、自分でもわかっていた。


 だって、ノルがくれた右目の遺伝子と、ボクの身体の一部。

 それを合わせてくれた子たち。

 あの五人の子は特別で。


 でも、顔合わせしたセレスタには遠く及ばなかった。

 それに醜いし。

 小さいし。

 でも君との子だ。

 ちゃんと愛している。



 チューブの整った通路に、ノルの黒羽色の髪が垂れ落ちていく。

 その先で、ラザリが待っている。

 眠ったセレスタの牢と同じ場所に。


 見せつけてやる。


 僕の方が先に、この人を手に入れたんだと。

 あの子にはもう、遅いんだと。



 ――ゆっくりお休み、ノル。

 目覚めた時には僕は本物の“竜”になる。



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