五十一話、王として、私として【ヴェラノラ視点】
元来た無機質な通路を一人進む。
――『私にはできなかった。だが、君たちなら……』
王として、個人としての。
悲痛な叫び。
正直、気持ちがわかってしまう。
王とはどこも孤独なものか。
竜にも会っていた、と言うのも気になったが。
また個人的に話ができた時に聞いてみよう。
「はいはい、気が向いたらな」
と言う声が聞こえてバンと強く閉まる扉の音が聞こえた。
締め出されたのは、リデル。
またこの青年か。
「お茶くらいしようよ!」
ドスドスと、ドアを叩く。
私は見なかったことにして「失礼」とその扉を開く。
「ボクも中に――」
入られる前に閉めた。
「おかえり、ヴェラノラ」
隅に佇んでいた。
なんだか、お疲れだ。
おそらくずっとあの青年に追いかけ回されたのだろう。
「おい、作戦を立てるぞ」
「何の?」
「セレスタ救出の、それと……反乱扇動の」
「ふぅん」
あまり反乱のことはやる気が無さそうにみえた。
ただ、目は笑っていなかった。
温室でのことを伝え、実験体の軍を作っている、ということを伝えた。
「おまえ、操ることくらい容易いだろう? それで反乱をしてほしい」
「大丈夫なの? それ」
「強力な後ろ盾があるからな」
バリストンが、訝しむ。
察しの良いヤツだから、誰かはわかっているだろう。
「問題はどうやって探るか、潜入するかだな」
と、私は呟いた。
「ああ、多分地下だ。街中の。ただ――」
「報連相しっかりしろ」
「はいはい。……ただな、場所がな。おんなじ建物ばっかだし」
葡萄を摘み、食べる。
確かに、帝都に限ったとしても、広大だ。
しらみつぶしに探せば、セレスタが危ない。
「ああ。俺が罠にはまろうか」
「……?」
「どうせ向こうも俺が黒いルミナリアの主だと察してるだろうし? 薬が効くことはあの子で立証されているだろ」
バリストンを心配するわけではない。
そう思ったのに。
危険だ。
(……違う。きっと、私ももう、心配している)
心を抉るような、焦りが胸にこびりつく。
セレスタが囚われているのに、私はまだ地を踏みしめたまま。
一刻を争うというのに、なぜここで言葉を交わしているのだろう。
けれど。
彼が、命を張ると言った瞬間。
(私の、炎が――ざわめいた)
それは、セレスタのためだったはずなのに。
それだけであるべきだったのに。
違う感情が、喉の奥で絡まる。
が、それほどこいつもなりふり構っていられない、ということか。
「――ちょうど、お茶誘われているしな」
未だにトントン叩く扉を指差す。
ひらりと舞う黒蝶を二対出して、バリストンはそのノックに応じた。
セレスタ、必ず救い出す。
それが“王”としての私の使命であり、“私”としての祈りでもあるのだ。
私は耳飾りに触れた。
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※本作は、ここで一度、区切りとさせていただきます。
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